不適切な会計処理が明らかになり、東芝の歴代トップ3氏が引責辞任したが、次の焦点は東芝のこれまでの貸借対照表が果たして適切なものだったのか、ということになろう。この点に第三者委員会報告書も触れていない。
7月21日の東芝と第三者委員会の記者会見場につめかけた証券アナリストたちが疑問を投げかけたのは、実はこの点だった。東芝の資産約6兆2400億円のうち、「のれん代」が1兆円余、短期と長期の繰り延べ税金資産が約4000億円も占めている。
これらは現預金や有価証券、不動産などと異なって〝実態〟の曖昧な、いわば裁量によって弾き出された資産である。今後、資産査定を厳格化した場合、東芝が資本不足に陥る危険性が高まる。それを免れようと、メーンバンクの三井住友銀行を中心にした増資引き受けが浮上するかもしれない。
東芝の第三者委員会が7月20日にまとめた報告書によると、東芝は2009年3月期~15年3月期の第三四半期(08年4月~14年12月)までの間に税前利益段階で累計1518億円の減額修正の必要があることがわかった。これを受けてアナリストたちの関心は東芝のバランスシートに集中した。会見場では記者たちの質問が経営陣の認識や作為に集中した半面、アナリストたちは「純資産は毀損しないのか」「これまでの、のれん代の資産計上は適切になされたのか」などとバランスシートに関心の矛先が向かった。
東芝は、退職給費債務に関連したものと、繰越欠損金に由来するものの、二種類の繰り延べ税金資産があり、合計で約4000億円になる。これはもし、資本欠損や債務超過に陥った場合は計上が許されない性質の資産だ。「チャレンジ」と称して利益をかさ上げしなければならなくなったのは、資本欠損を避ける狙いがあったのかもしれない。
さらに、これとは別に1兆円を超えるのれん代も資産計上されている。のれん代とは、買収した企業の純資産を上回る金額で買収した際に発生し、主に営業権やブランドなど無形の価値を弾き出したものにあたる。
この1兆円の中に含まれているのが、東芝が2006年に買収したウエスチングハウスの〝のれん代〟だ。当時、ゼネラル・エレクトリックや三菱重工業と競い合った末、東芝は米ショーグループなどとの三社連合で6210億円でウエスチングハウスを買収した。このうち3500億円がのれん代として計上されている。
福島原発事故が起きる前の2006年当時ならば日米の原発メーカーの合作によって、海外市場に原発を相次いで輸出する楽観的な成長シナリオが描けたであろうが、11年の原発事故はそうした楽観論は陰を潜めている。
米国会計基準を採用している東芝は、年に1回、減損テストを実施し、帳簿価格よりも正味価値が低くなっている場合は、その差額を減損しなければならないが、いままでのところ「減損は認識していません」としてなされていない。
繰り延べ税金資産とのれん代という二つの脆弱な資産が今後、仮に一気に減損されたりした場合、東芝は資本欠損、最悪の場合は債務超過に陥る可能性がある。場合によっては会社更生法の適用など法的整理を選択肢に考えざるを得なくなるだろう。
メーンバンクの三井住友銀行は東芝の財務状況の悪化に気が気ではないだろう。旧三井銀行系の中核的な貸出先の東芝の窮状をみかねて、破綻回避のための資本増強、増資引き受けをするかもしれない。キーマンは旧三井銀行出身のエース車谷副頭取あたりであろうか。
しばらくは漂流する東芝の行方が経済報道のメーンとなるだろう。