ライブドアがニッポン放送株を強奪し、楽天がTBSの筆頭株主に躍り出たヒルズ族騒動から今年で10年。両社の株式買い占めの「指南役」であり、自らも前面に出て阪神電鉄株を大量取得したのが、村上ファンド主宰者、村上世彰氏だった。
一世を風靡した「ときの人」村上氏はいま、どうしているのか。週刊誌風にいえば「あの人はいま」の格好の題材になりそうなのが、最近の村上世彰氏の動向だろう。
村上氏は、東京地検特捜部に証券取引法違反容疑(インサイダー取引)で逮捕される当日の2006年6月5日、東京証券取引所における記者会見で「もう皆さんの前に姿を見せることはない」と語って、表舞台を去った。だが、どうしてどうして、株式市場では依然として強面のアクティビスト(いわゆる「物言う株主」)として活動を続けてきた。
最近のEDINET(上場企業などの開示文書を閲覧できる公的なサイト)などによると、村上氏が実質的に支配している投資会社レノ(東京・南青山)がその共同保有者(すべてレノ・旧村上ファンド関連の法人や個人)と保有している上場銘柄は次の通りだ。
自動車部品メーカーのヨロズ(10・85%)、ゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフ(15・13%)、コンテンツ配信のフェイス(8・07%)、出版などメディア企業のセブンシーズホールディングス(8・17%)。このほかにも、開示対象になっていない5%未満の株を取得している企業があるらしい。
これらのうち、昨年の株式市場で話題をさらったのが、アコーディア・ゴルフの自社株公開買い付け(TOB)に応じることで村上氏側が約300億円の回収に成功した(利益は現時点で100億円規模と推定される)ことだろう。
同業のPGMホールディングスが2012年11月、アコーディアに対して敵対的なTOBをしかけると、レノは早速アコーディア株の買い付けを開始。翌年1月までに一気に18%余を取得した。
PGMを毛嫌いするアコーディアの経営陣にエールを送るかのように、レノは公開書簡で「現経営陣のもと株式価値が向上するのであれば株主として中長期的に支援する」と表明。アコーディアの経営陣はその“甘言”に乗せられ、村上氏は水面下で鎌田隆介社長らアコーディア経営陣に複数回面談し、株主還元策としてシンガポールのビジネストラスト(不動産投資信託=REITのようなもの)への上場策を助言している。
この申し出を丸呑みしたような格好で、アコーディアは保有するゴルフ場133コースのうち90コースをビジネストラストに売却して1132億円を手にした。これを自社株TOBの買い付け原資に充当し、村上氏側がそれに応じてアコーディア株の一部を売ることで300億円を手中に収めたのが、ことの顚末だ。
ポイントは、ピーク時35%余を保有していたレノは、アコーディアの自社株TOBに応じたものの、依然として15%もの株式を保有している点だ。これまでアコーディア株取得に360億円を投じたものの、回収したのはまだ300億円。すなわち、まだまだアコーディア経営陣を揺さぶり、シャブリ尽くす公算大なのだ。
このアコーディアを揺さぶる過程で注目されたのが、レノ代表者の美貌の三浦恵美氏(元村上ファンド企画部課長)とともに、村上氏の長女絢(あや)氏が株主総会やアナリスト説明会に姿を見せた点だ。絢氏はモルガン・スタンレーを経て村上氏の関連企業に入り、その企業分析は父親譲りの緻密さらしい。
レノが株式取得した企業に「村上の娘です」と名乗って訪問し、応対した相手を驚かせたという。目がクリっとして美貌の彼女の存在をかぎつけた写真週刊誌が昨年2度、撮影に成功したらしいが、弁護士を立てて抗議してきた村上氏側に屈したようで掲載されていない。
そんな村上氏の近況が今年1月、朝日新聞に電話インタビューの形で掲載された。その中で村上氏は「いまは、ほとんどの資産をアジアの不動産投資に向けている」と発言。くだんの記事は、カンボジアやミャンマーなど新興国むけ不動産投資をメインとし、日本国内の株式投資は手じまいするかのような口ぶりだった。
口八丁手八丁の彼らしい煙幕なのか、それとも本当に海外投資を活発化させているのだろうか。