ダイハツ工業が新型の軽クロスオーバー「タフト」を6月10日に発売した。
軽クロスオーバーとは、軽ワゴンと軽SUV(スポーツ用多目的車)を融合させたジャンルで、2014年1月発売の「スズキハスラー」が先鞭をつけ、大ヒットとなった。
そのスズキハスラーは2020年1月、初のフルモデルチェンジを行い、2代目となった。今回のダイハツタフトは、その2代目のハスラーに真っ向から勝負を挑む新型の軽クロスオーバーだ。
日本国内で軽の首位争いを演じるダイハツとスズキは、これまでもどちらかにヒット車が出ると、お互いにすかさず同じコンセプトの対抗車をぶつけあってきた。古くは「スズキワゴンR」に対して「ダイハツムーヴ」、「ダイハツタント」に対して「スズキスペーシア」といった具合で、熾烈なライバル争いを演じてきた。
今回、ダイハツがスズキハスラーを徹底してマークしてきたのは、スタイリングを見れば明らかだ。ダイハツにはこれまでハスラーに対抗するモデルとして「キャストアクティバ」が存在したが、より本格的なクロスオーバーとしてタフトを投入したのだろう。
結論を先に言えば、タフトとハスラーはスペック的に「似て非なる」クロスオーバーだ。それはスタイリングを見ていただけではわからない。パワートレイン(エンジンなど駆動装置)の成り立ち、基本的な構造が違うのだ。スズキがハスラーの全グレードにマイルドハイブリッドを採用しているのに対し、ダイハツは従来通りタフトにもハイブリッドを採用しなかった。
スズキのマイルドハイブリッドとは、モーター機能付発電機で減速時のエネルギーを利用して発電し、鉛バッテリーとリチウムイオンバッテリーに充電する。その電力をアイドリングストップからの始動に活かすほか、加速時にはモーターでエンジンをアシストし、燃費の向上を図るものだ。
これに対してダイハツは「ハイブリッドは重量が重くなるほか、コストがかかり車両価格が上昇するため、軽には適さない。燃費の向上は、ガソリンエンジンの改良やホディーの軽量化で行うべきだ」との考えを踏襲している。私はこれまでの取材でダイハツの開発エンジニアから何度もこの話を聞いている。
この視点から、今回のライバル2車を比較すると面白い。先輩格のスズキハスラーは自然吸気モデルが36kW(49ps)のエンジンと1.9kW(2.6ps)のモーターを備える。ターボモデルは47kW(64ps)のエンジンと2.3kW(3.1ps)のモーターとなる。車両重量は810キロ~880キロだ。
これに対してダイハツタフトは、自然吸気モデルが38kW(52ps)、ターボモデルが47kW(64ps)で、車両重量は830キロ~890キロだ。単純比較はできないが、モーターを有するハスラーの方が最軽量モデルで20キロも軽く、ターボの場合、モーターを合わせた最高出力でタフトを上回る。
その結果、国土交通省が審査したWLTC(市街地、郊外、高速道路の各モードを平均的な使用時間配分で走る国際的な燃費測定法)モードの燃費はどうか。ハスラーは最も燃費の悪いターボモデルでリッター当たり20.8キロ、最もよい自然吸気モデルで25.0キロとなっている。
これに対して、ダイハツタフトはターボで19.6キロ、自然吸気で20.5キロだ。ターボで1.2キロ、自然吸気で4.5キロの差がある。それなのに、メーカー希望小売価格は最も廉価グレードでハスラーの136万円に対してタフトは135万円と大差ない。
もちろんカタログスペックだけで実用燃費を比較することはできない。しかし、マイルドハイブリッドを積極採用し、軽量化と低燃費を実現しているスズキに対し、後発のダイハツタフトが軽量化と燃費の両面で遅れをとるのは、技術競争の観点から残念だ。
かつてのダイハツは初代ミライースに代表されるように、軽量化とガソリンエンジンの改良で低燃費を実現し、「軽にハイブリッドは必要ない」という主張には説得力があった。果たして今回はどうだろうか。
メーカーの月間販売目標がハスラーの6000台に対し、タフトは4000台。ダイハツの目標が控えめなのも、このへんの事情があるのかもしれない。激戦区の軽市場で日本のユーザーがこの2車をどう評価するか、今後の行方に注目したい。