コンビニを日本に導入し日本最大の小売業に育て上げた鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス会長が、7日辞任した。
会見では、創業家のクーデターを示唆する発言を繰り返し、内紛と受け取られかねない説明に終始した。名経営者と評価された過去があるだけに、残念な会見だった。晩節をけがしたというほかはない。
この日は、最高益を更新するセブンーイレブン社長の井阪氏の更迭人事が取締役会に会社案(実質は鈴木会長案)としてかけられた。無記名投票で出席15名のうち7名が賛成、6名が反対、2名が白票となって過半数に達せず否決された。鈴木氏は「その責任をとる意味もある」と辞任理由に挙げた。
鈴木氏によると、取締役会後に辞任を村田セブン&アイ社長に告げたという。村田氏ら腹心にも予想外の辞任表明だったようだ。だが、「辞めるのだから明日のアナリスト説明会にもでない」と表明する一方で、「明日も会社に行く。仕事を放り出すわけではない」と語った。
気になるのは、辞任はいつなのかと記者からの問いに答えなかったことだ。常識的には株主総会前だが、国際サッカー連盟の会長がいったん表明した辞任を撤回したことがあったように、ワンマン経営者がずるずると居座るケースが過去になかったわけではない。そんなことになれば、セブン&アイは単に人事にとどまらず、経営そのものが大きく迷走を始めることになるだろう。
会見の目的は、引退の表明というより、創業家のクーデターだったと印象づけることにあったようだ。会見の冒頭で鈴木会長は「(セブンーイレブン人事の)過程における経営と資本の分離問題があった」と前置きし、創業家の問題を示唆した。そのうえで、村田社長が「伊藤名誉会長に人事案の承認を求めたが、認めてもらえなかった」と明らかにした。
会見には、伊藤名誉会長と鈴木会長との橋渡し役だったという二人の顧問が陪席し、口々に「伊藤名誉会長の心変わりに困惑している」(後藤顧問)と語った。創業家が黒幕であるかのような印象を与え、内紛を明らかにする会見は、企業価値を毀損するばかり。鈴木会長のトップとしての品格が疑われる内容だった。
そもそも、井阪更迭案はトップの暴走に歯止めをかけるために設けた指名・報酬委員会で認められなかった案。それを、トップが強行しようとすること自体、コーポレートガバナンス(企業統治)のうえで、大きな問題がある。
それを一貫してサポートし、企業価値を貶めている会見にも同席している村田社長もトップを続ける資格はないだろう。
鈴木会長は気づいていなかったのかもしれないが、社内の人心は鈴木会長から離れていた。実績のない子息を取締役にまで登用し、「世襲」への懸念が社内に広がったことが決定的だった。「鈴木商店」とも言えるようなワンマン体制の終焉は、あっけなかった。長期政権の膿も出てきかねない。
速やかに脱鈴木の後継体制に移行できるかどうかが、セブン&アイが信用を取り戻せるかどうかの鍵を握ることになる。だが、ワンマン体制の崩壊の後の引継ぎは非常に難しい。本当の内紛が起こらないように収拾するのは、簡単ではないだろう。
セブン鈴木会長 晩節けがした「内紛」暴露会見 |
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セブン&アイ あっけない「鈴木商店」の幕切れ
公開日:
(ビジネス)
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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