ソフトバンググループであるPSソリューションズ(東京都港区、鬼頭周社長)は、厳しい屋外環境でも使用できる計測・集積システム「e-kakashi」を開発、農業分野でのIT化を進める。
温度や湿度などの農作業に関連するデータをリアルタイムに計測・集積するシステムを構築し、そのデータを基に最適な栽培方法を提案する。
2008年、ソフトバンク内の社内プロジェクトとして農業分野のIT化を進めるための取り組みがスタートした。このプロジェクトで開発着手されたのがe-kakashiだ。
その名前が示す通り、電子の案山子を目指したもの。データを収集するために田畑などの圃場に専用のセンサーノード(子機)を設置し、温湿度、日射量、土壌水分、CO2などのデータをリアルタイムに計測する。温度や日射量などを計測する複数のセンサーを備えており、計測するデータに応じてセンサーを追加していくことができる。
計測したデータは10分毎にゲートウェイ(親機)に無線通信で送られる。1台の親機に最大100台の子機を接続可能だ。親機に送られたデータは自動でクラウド上に蓄積されていく仕組みになっている。
同社担当者によると、「圃場という非常に厳しい屋外の環境下で常に正常に機能させるたに、ハードの性能をいかに向上させるかが課題であった。また、電力を自由に使うことも難しく、バッテリーのみで長期間にわたり駆動させるための配慮も求められる」という。
機器は日立製作所と共同開発し、こうした課題を克服、厳しい耐久試験をクリアした高品質機器を実現した。子機は内蔵されたバッテリーを交換することなく、一定条件下であれば3年間駆動できる。
3年もの間、バッテリー交換不要なことは画期的なブレークスルー。そうした改良を経て、2015年10月からe-kakashiの本格販売がスタートした。導入価格は、機器価格が74万9600円(税抜き、ゲートウェイ1台、センサーノード1台の価格)で、月額料金が7980円~となっている。
e-kakashiは、単にデータを取集・蓄積するためのシステムではないという。蓄積したデータを活用し、科学的農業を推進するためのサービスを提供する。
まず栽培に関する様々なデータを可視化するサービスを提供。クラウドに蓄積したデータをパソコンやタブレット、スマートフォンなどで閲覧できる。分かりやすいユーザーインターフェースを用意しており、一目で圃場の現在の状況を確認できる。
これにより、施肥や収穫のタイミングを就農したばかりの、いわば素人農家でも間違えず済むようになる。また、農地集約化のなかで、離れた農地のチェックのため、現地に出向く回数を減らすことができるようになる。
加えて、「ekレシピ」として、栽培管理技術、ノウハウをまるで料理のレシピのように創造できる機能も備えている。日本各地のレシピを取り込むことができ、自分流にアレンジしながら活用することも可能だ。
「ekフィールドビュー」という機能も用意した。この機能は、センサーデータと「ekレシピ」を融合し、適切な収穫時期や施肥のタイミングなどをアドバイスするもの。
この機能を活用することで、地域特有のブランド野菜などの栽培方法を共有化できる。例えば、地域の自治体や農業共同組合、研究機関などと連携しながら、日射量の累計などを踏まえて、栽培上の注意事項や適切な栽培工程などを知らせることもできる。
連携は農家だけではない。全国5カ所の農業専門学校と120カ所の貸し菜園を展開するマイファーム(京都府京都市、西辻一真社長)とは業務提携した。農業IT授業を導入するだけでなく、貸し菜園にe-kakashiを導入することを検討していく。菜園利用者に様々な情報を提供していくのが狙いだ。