「これまで『のどに小骨が刺さったようだ』と話してきたが、非常にすっきりした」――。8月30日に東京都内で会見したスズキの鈴木修会長は、2009年の提携発表から約6年、国際仲裁裁判所の裁定を受けてVWとの問題解決にようやくめどがつき満足げだった。
VWが保有するスズキ株は約19.9%分、株式数にすると1億1161万株。買い戻し額は、現在の株価ベースで4600億円程度。スズキは現在の株価水準からかけ離れ過ぎない買い取り価格で自社株を買い戻す予定で、現在の時点では買い戻しにかかるコストを全て自社で賄う方向でいることを表明した。鈴木会長は30日の会見で、今後の提携戦略は「自立して生きていくことを前提に考えていきたい」と語った。VWに代わる資本提携のパートナーを探す必要はない、と聞こえる。
だが、VWに代わる提携相手はやはり必要だ。鈴木会長の発言はまだまだ不透明な提携交渉に注目が集まりすぎるのを避けるための煙幕と見たほうがいいだろう。
今回の国際仲裁裁判所の裁定でも指摘された一部のスズキによる契約違反に対し、VWから損害賠償を請求される可能性もある。場合によっては最終的にVWとの問題を解決するためには6000億程度、もしくはそれ以上の資金が必要ではないかという見方がある。スズキ単独では大きな負担だ。
さらに、将来の競争力を強化するために必要と言われている環境技術(つまりハイブリッドなどの技術)の獲得問題がある。スズキはVW以外のどこかとやはり提携しなければならない、と考えるのが自然だ。
「物言う株主」として知られ、スズキ株の一定額を取得したと7月末に表明した米投資ファンド、サード・ポイント。関係者がスズキへの投資に興味を持った理由に挙げるのは、この新しい提携先模索をめぐるスズキ攻防戦である。
サード・ポイントの代表であるダニエル・ローブは8月31日、日本経済新聞などの取材に応じ、スズキはVWから買い戻す自社株を消却すべきとの見解を述べた。20%近くの株式が消却されればその分株価の上昇が期待できる、と言いたいわけである。
この発言を、「買い戻した自社株の消却をすることイコール提携先を探す必要はない」とサード・ポイントは言いたいのだと理解する向きもあるが、同ファンドの関係者によると、20%の買い戻した株を消却したあと、その上でポストVWの提携先を決めてください、というのがサード・ポイントの描くスズキの将来なのだと説明する。
「VWとの提携を解消し、スズキの次の提携先がどうなるかという問題については(サード・ポイント)はずっとウオッチしている。現在はまだ提携先が決まってくるタイミングとは思っていません。まずは、買い戻す株を吸収し、株価の上昇をはかってくださいということです」という。
すでにスズキとの「ポストVW」の提携先として、鈴木俊宏・新社長の周辺からは、トヨタの名前が挙がっている。新社長はトヨタ系列のデンソーに勤務した経験もあって、トヨタに親近感が強いとされる。また、新社長の参謀役となっている経済産業省出身の腹心も、同様に考えているようだ。
だが、主導権を手離していない鈴木会長はトヨタには距離があるとされる。そのため、中国でのスズキの提携先である長安汽車や、やはり中国大手自動車メーカーの北京汽車などいくつもの海外メーカーの名前が挙げられている。
今年に入って鈴木修会長に話に来た企業はすでに複数あるという。インドやインドネシアなどの新興国向けの低価格車の開発で他社をリードし、独走を続けるスズキを他社が放っておくわけがないということだ。いずれ、提携交渉が再燃するのは確実といえるだろう。