トヨタ自動車とSUBARU(スバル)が共同開発するスポーツカー「トヨタ86」と「スバルBRZ」の2代目となる新型モデルの発売が2021年初頭となる見通しになった。
当初は2021年後半以降とみられていたが、自動車雑誌「ベストカー」が6月26日号で「スーパー・スパイ・スクープ」と銘打って「来年3月モデルチェンジ」と特報した。
新型コロナウイルスの影響で、自動車メーカーは減産を強いられているが、次期86・BRZの発売情報は、スポーツカーファンにとって久しぶりに明るい話題に違いない。
ベストカーがスクープしたのには理由がある。東京スバルが現行のBRZについて「7月20日で注文の受付を終了する」と発表したのだ。つまり現行のBRZの生産は、遅くとも年内、早ければ今夏にも終了するということだ。同社は「想定を上回る注文をいただいた場合、7月20日以前に注文受付を終了する可能性がある」とも告知している。
トヨタも現行86の最後の特別仕様車と思われる「ブラックエディション」を限定発売した。こちらも現行車がモデル末期であることを匂わせている。
次期86とBRZをめぐっては、トヨタの地元の中日新聞と東京新聞が2018年4月3日付朝刊で「トヨタ、次期86開発着手」と報じるなど、マスコミの関心が高かった。この時点で同紙は「2021年をめどに発売する予定」と報じていた。結果的に同紙は、確度の高い情報を入手していたことになる。
筆者は2017年秋の時点で、スバルの技術担当の最高幹部に「トヨタとスバルが次期86とBRZを共同開発中」で、「搭載するエンジンは引き続き、スバルの水平対向エンジン」であることを確認していた。
さらに別のスバルの開発エンジニアから「エンジンの排気量は現行の2リッターから変更となる」「6速マニュアルミッションは今後も存続する」などの核心情報を入手し、2018年4月のSOCRAでレポートした。しかし、正確な発売時期までは残念ながら詰め切れなかった。
初代86とBRZは兄弟車として2012年にデビューした。スバルの水平対向エンジンをエンジンルーム後方に低く搭載し、後輪を駆動するフロントミッドシップレイアウトのFR(フロントエンジン・リヤドライブ=後輪駆動車)として、日本国内だけでなく、北米や欧州市場などで成功を収めた。
その結果、2代目も企画とデザインはトヨタ、開発と生産はスバルが行う共同開発車として存続が決まった。その具体的な発売時期を有力な自動車メディアがスクープした。
近年のトヨタはハイブリッドなどのエコカーだけでなく、「走り」を求めるクルマ好きの心に刺さるスポーツカーの開発にも積極的だ。2019年5月には、独BMWと初めて共同開発した新型「スープラ」を17年ぶりに復活させ、話題を呼んだ。
トヨタが他メーカーとスポーツカーを共同開発するのは86・BRZに次ぎ、スープラが2車種目だ。しかも、86がスバルの水平対向4気筒エンジンを採用したのに続き、スープラはBMWの直列6気筒エンジンを採用した。
自身も「走り屋」の豊田章男社長率いる近年のトヨタは、スポーツカーに関しては、他社とのコラボレーションで「いいとこ取り」をする戦略を積極的に進めている。
トヨタは直列6気筒エンジンの開発・生産をやめて久しい。トヨタが2013年にBMWと包括提携を結んだ理由の一つは、BMWが得意とする直列6気筒をトヨタの高級スポーツカーに搭載することだった。
トヨタと資本提携するスバルにとっては、2代目86・BRZにスバルの水平対向エンジンが継続採用されるのは名誉なことだ。低重心で回転バランスに優れる水平対向エンジンの優秀性をトヨタに評価されたことになるからだ。トヨタにとっては、世界の自動車メーカーでスバルと独ポルシェしかない希少な水平対向エンジンを手に入れることになる。
86・BRZのステアリングを握ると、水平対向エンジンのメリットを体感できる。FRレイアウトのため、AWD(4輪駆動)のスバルWRXより水平対向エンジンをさらに低く、後方にマウントする86・BRZの運動性能は高い。コーナリングではフロント・ミッドシップのFRらしい軽快さとシャープさを発揮する。
高速道路の直進安定性も水平対向エンジンの重心の低さゆえか、AWDのWRXと比べても全く遜色ない。まるで4輪が路面に吸盤で吸いついているかのような安定感を感じる。
本来、FRの方がAWDに比べ横風などに弱く、路面のアンジュレーション(細かな起伏や凹凸)に進路を乱されやすいが、そこはAWDの経験豊富なスバルが開発したFRらしく、どっしりと安定した直進性を示す。
残念ながら現行の日本車でも直進安定性が低いクルマは少なからず存在する。高速で直進安定性が低いクルマは運転して疲れるばかりか、コーナリングも不安定で楽しくない。
その点、「走り」に期待できる次期86とBRZが持ち遠しいが、気になる情報もある。BRZは海外専用となり、日本国内では販売しないという一部自動車雑誌の報道だ。
東京スバルが現行BRZの受注終了を告知する文面には「新次元のハンドリングを手にする最後のチャンスを東京スバルで」とある。「最後のチャンス」とは、次期BRZを日本では発売しないという意味なのか。筆者の深読みが誤解であることを祈るばかりだ。