コンビニエンスストア業界第3位のファミリーマートと同業界第4位のサークルKサンクスを擁する総合小売業、ユニーグループ・ホールディングスの両社は10日、取締役会を開き、対等の精神にのっとり、経営統合に向けて正式な協議に入ることを決めた。来年9月を目途に、コンビニ事業の統合を柱に持ち株会社の設立を目指すことになった。
しかし、4日前に経営統合の報道が流れて以来、その経営効果を懸念する声が日増しに高まっている。コンビニ業界の「弱者連合」ではないのかという疑問やユニーの総合スーパー事業が「お荷物」になる可能性が指摘されている。
さらには、ユニーグループの社内のまとまりの悪さから、経営統合協議自体の行方を心配する声まで出ている。実際、32年前の1983年春、ニチイ(後のマイカル)とユニーは、ユニーの社内事情からいったん合意した合併協議を白紙に戻している「過去」もある。
確かに経営統合の先行きは厳しいが、見方を変えると、新たな流通第3極浮上の姿が見えてくる。鍵を握るのは、両社と資本、人的関係の深い伊藤忠商事の存在である。
総合商社は流通革命の時代から国内流通体制の整備には熱心で、すでに川中の食品卸売業界では系列化がほほ完了している。三菱食品と伊藤忠系の日本アクセスが1、2位を分け合い、その後には三井食品、伊藤忠食品等々が続く。
川下の小売業界はイオン、セブン&アイの2強が踏ん張っているが、成長分野のコンビニは2位のローソンが三菱商事、3位のファミマが伊藤忠の傘下に入っている。
10兆円近い市場の9割近くを上位4社で占める寡占型のコンビニ業界は仕入れや関連設備のロットが大きく、規模の利益が欲しい総合商社には魅力的な生活消費関連産業である。
総合商社「御三家」の中で、この生活消費関連産業で№1になる戦略目標をはっきりと掲げているのが伊藤忠商事にほかならない。川中を押さえ、さらに今回、川下に大きく一歩踏み込んだ。そこで展開する可能性のあるビジネスモデルのお手本も、すでに用意されている。
伊藤忠商事は10年以上前の2003年、傘下に中国最大の食品メーカー、康師傳を擁する台湾系企業集団、頂新国際集団と包括戦略提携を結び、それに基づき翌04年にはファミリーマート、台湾ファミリーマート、頂新グループの3社と合弁会社を設立、上海から広州、蘇州等で出店を開始した。
並行して、日系食品メーカーの中国市場への参入を促した。伊藤忠商事は頂新グループと組んで、アサヒビール、カゴメ、日本製粉、敷島製パンと矢継ぎ早に現地合弁会社を設立し、川上の生産体制を整えた。加えて、06年には上海の地元卸、上海中金を傘下におさめ、川中を補強した。
中国では川上から川中、川下まで緩やかに統合するビジネスモデルが着々と整備され、日系コンビニが苦戦する中で、ファミリーマートの店舗数はいち早く1千店を超え、2014年度上海地区の収益は好転した。
今回の経営統合劇を主導したと報じられているファミリーマートの上田準二会長は、伊藤忠時代は食品事業等を経験した生粋の生活消費関連産業出身の商社マンである。経営統合の先に浮かぶ流通第3極の姿は、現2強とはまったく異質で、スケールの大きな準垂直統合型ネットワーク・ビジネス・モデルである点に注目したい。
ファミマとユニー、伊藤忠の戦略で踊る |
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ファミマとユニー、経営統合を発表。カギを握るのは伊藤忠。新モデル作れるか
公開日:
(ビジネス)
Reuters
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矢作 敏行(法政大学教授)
1969年国際基督教大学教養学部卒業。商学博士(神戸大学、論文)
1969-1990年日本経済新聞社編集局記者。1990年、法政大学経営学部教授。1975-1976年米コーネル大学フルブライト客員研究員、1996-1998年英オックスフォード大学小売経営研究所客員研究員。現在は法政大学大学院経営学研究科・経営学部教授。 著書に『デュアル・ブランド戦略』(編著)有斐閣、2014年、『日本の優秀小売企業の底力』(編著)日本経済新聞出版社、2011年、『小売国際化プロセス』有斐閣、2007年、『日本の流通100年』(石原武政氏との共編)有斐閣、2004年、『現代流通』有斐閣、1996年、『コンビニエンス・ストア・システムの革新性』日本経済新聞社、1994年など他多数。 |
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