2013年にマクラーレン・ホンダとしてのF1復帰を発表して以来、「メルセデスと対等に戦える」と、豪語し続けてきたホンダ。その自信とは裏腹に復帰以来かなり重症な不振が続く。ホンダF1プロジェクト総責任者である新井康久によると、ホンダ不振の主な原因としてそのパワーユニット(つまり簡単に言うとエネルギー回生のできるハイブリッドエンジン)の「ヒートマネジメント」、つまり熱との戦いが上手くいっていないのだという。
ホンダF1全盛期のレース関係者によると、新井は嘘ついているわけではないが、ホンダがF1で直面する問題の本質については巧みに話しをそらしているという。
確かに、7月に放送されたNHKスペシャルでも指摘されたように、今回F1に再参戦するために開発されたホンダのパワーユニットは、F1で勝利するためには「空力とマシン全体のパッケージがものすごく重要なので、大きくて重いパワーユニットは邪魔」という思想で極めて小ぶりに設計してある。
「小さなシルエットで車体に搭載できるようにぎゅうぎゅう詰めに」設計してあるのだという。
その設計のツケとして摂氏1000度を超える排気の熱がパワーユニット内でいろいろな問題を引き起こすことになった。実際のレースではそのパワーユニットを守りながら走るため当然出力は上がらず、順位もがあがらない。「とくに160馬力くらい出る1リットルのペットボトル大のモーターも発熱がすごい」と新井はいう。熱との戦いを克服することが出来ず今シーズンも半ばを既に過ぎてしまった。
そのような状況の中で、ホンダF1リーダーの新井が、そしてホンダのF1関係者がひた隠しにするもう一つの問題がある。それこそパワーユニットの熱問題を上回る、ホンダのパワーユニットがトップチーム(メルセデス、フェラーリ)のそれに比べて出力が上がらない真因だという。
そう指摘するのは、1980~90年代に活躍したホンダのF1リーダー(つまり新井の先輩)がそう指摘する。
その関係者は今年の6月にパリにいた。オーストリアGPの決勝前日の土曜日、その朝いきなりホンダと今回車体提供者として一緒にF1に参戦しているマクラーレンのグループCEOロン・デニスから電話があった。
「ロン・デニスが、なぜ私がパリに来ていることを知っているのかは分からない。でも、何とかしてくれと言ってきた」とそのホンダの元F1レース関係者はいう。
「要するに、外に対してはホンダとは上手く行っていると言っているけど、実は中はぐちゃぐちゃなんだ、と。スタートして既に半年たつけれども何も進歩してない。進歩が遅すぎるので、新井に言うけど、そのたびに彼は予算がないという」
ロン・デニスがホンダF1パワーユニットの不振の真因とするのは、ハイブリッドシステムも含めたパワーユニット全体を制御するソフトウェアだという。つまり、一般的なコンピュータに置き換えれば、それを制御するCPUである。
「ソフトウェアーでトラブルが出ているので、エンジニアを投入してもっとソフトを根本から見直してくれと新井にいうと、予算が無いの一点張りだと、ロン・デニスは話している」
「新井はアロガントでとにかく話しがそれ以上進まないんだと」
後半戦に入ったF1、新井はこれからのホンダはどんどん上位を目指せるアップデートした新しいパワーユニットを投入していくと説明している。確かに7月中旬のハンガリーGPではマクラーレンの車が決勝で5位に入賞し後半戦での活躍が期待される。しかし、ロン・デニスの訴えが本当であればその行方は予断を許さない。