関西電力はじめ電力4社は3月中旬、運転期間が40年を超える原子力発電所のべ5基の廃炉を相次いで発表した。
対象となったのは関電の美浜1、2号機、九州電力玄海1号機、中国電力の島根1号機、日本原子力発電の敦賀1号機などで発電能力が55万キロワット以下の小規模な原発。「40年廃炉」ルールに従ったものだが、同じ40年超の原発でも80万キロワットを超える比較的大型の高浜1、2号機は最大20年間の運転延長を申請した。
新しい基準での地震、津波対策が必要になるなかで、改修投資と原発運転のメリットをにらんだ判断だが、原発廃炉が当たり前になれば、”廃炉ドミノ”が起きる可能性もある。電力業界の原発に対する姿勢は今、社内でも揺らぎ始めている。
今後、さらに廃炉を発表するのは四国電力の伊方1号機だが、廃炉の流れがそこで止まるかは不透明だ。電力業界としてはより安全性の高い原発のみを残し、さらに耐震や津波対策などを強化することで、各立地地域の再稼働への理解を得る戦略だが、ふたつの逆風がある。
ひとつは原油価格急落に伴う液化天然ガス(LNG)価格の下落だ。日本が輸入する長期契約のLNGは原油価格連動。昨年春ころは百万BTU(英国熱量単位)あたり平均16ドルで輸入されていたが、直近は10ドル前後まで下がっている。
さらに原油価格が1バレル40ドル になれば百万BTUあたり8ドルにまで下がる。一方の原発の発電コストは安全対策コストの増加で、今や新設原発では1キロワット時あたり15~17円といわれる。福島第一原発事故以前に電力業界が示していた5~6円という水準とは桁違いになった。コスト面からの原発優位性はほぼ消えた。
もうひとつは電力業界も含めた大型火力発電所の新設ブームだ。関電は丸紅と共同で秋田に130万キロワットの石炭火力の建設を発表、中部電力・東電連合は茨城県東海村に65万キロワットの石炭火力、Jパワーは宇部興産、大阪ガスと山口県宇部市に120万キロワットの石炭火力、さらに首都圏ではLNG火力計画も相次いでいる。電力需要が低成長のなかで、こうした100万キロワット級の発電所の新設ラッシュは必然的に原発を発電市場から追い落とすことになりかねない。
「廃炉と再稼働をセットで推進する」という電力業界の原発戦略は実は足下で揺らいでおり、廃炉を表明することで「原発廃炉は当たり前」の流れにつながる可能性がある。そうした電力業界にとってのリスクを承知で廃炉に動き出した底流には関電はじめ多くの電力会社が「段階的脱廃炉」というシナリオを現実的に持ち始めたからだろう。
電力各社、実は「脱原発」に転換 |
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原油価格下落と火力発電所新設に透ける方針転換 五十嵐渉
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(ビジネス)
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五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
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