ソフトバンクグループが3月7日、唐突にグループ内の組織再編を発表したことに、孫正義社長が連れてきたニケシュ・アローラ氏に対する日本人幹部の〝違和感〟の存在を感じ取ることができる。「私の後継者」としてアローラ氏に入れ込んできた孫氏だが、毀誉褒貶の激しかった同社をここまで育ててきた日本人幹部からすると、あまりにも唐突。遅まきながら孫氏は日本人幹部たちへの冷ややかな目線に配慮した格好だ。
ソフトバンクグループの発表によると、同社の事業を海外事業と国内事業とに分けて、それぞれ統括会社を設ける。海外事業統括会社の最高責任者をアローラ氏とし、その傘下に米スプリントを保有する持ち株会社スターバースト社や中国のアリババグループの持ち分など主に海外子会社や出資先の株式を移管する。
一方、国内事業統括会社の最高責任者は宮内謙氏とし、その傘下に国内の通信事業を担うソフトバンクや日本のヤフーなど国内子会社や出資先株式を移管する。その移管の時期と方法は孫氏に一任され、2016年末までを期限として実行するという。
この組織再編がなされるまでのソフトバンクグループは、孫氏が連れてきたアローラ氏が副社長としてナンバー・ツーの職責に就き、自身と同じような米国勤務経験のあるインド出身者を多数引き連れ、この通称「ニケシュ・チーム」が経営戦略など中枢の実務を担う印象を次第に強めてきた。
かねてからのナンバー・ツーだった宮内氏は副社長からヒラの取締役に降格、さらに取締役に就いて1年しかたたなかった後藤芳光、藤原和彦両氏も取締役から外れ、3氏は国内事業を任されることになった。国内事業を任される彼らを始めとする日本人幹部からすると、孫氏に報告する手前に「ニケシュ・チーム」が陣取る形態となり、日本語を解さない彼らに対して、いちいち英語で報告しないとならない煩雑さが発生するようになった。
「時給500万円」と皮肉られるアローラ氏の160億円余の高額報酬を始め、「ニケシュ・チーム」の面々は億円プレーヤーばかりである。一桁違う数千万円台の報酬の日本人幹部からすると、面白くない。それに加えて経営戦略や資金調達など、一つ一つ外国人幹部にお伺いを立てるのは、不愉快極まりないことだったろう。彼ら「ニケシュ・チーム」が主導して、ソフトバンクグループのマネジメント・バイアウト(MBO)による株式非公開化や本社を英国に移転する計画が持ち上がったから、なおさらだ。
「だいたい、あれだけの高額報酬を払って、なんらかの成果が出たのでしょうか。確かに一時期はインドなど新興国のネット企業に矢継ぎ早に投資しましたが、その後は音なし。孫さんがあまりにも過大評価しすぎ」と某幹部は不満を述べる。孫氏は、インド出身のラジーブ・ミスラ氏をグループCFOに据えようと考えたものの、日本人幹部が相次いで難色を示し、いまのところは見送っている。
こんな〝不協和音〟が背景にあるせいか、昨年秋、ソフトバンクグループの内部検討資料が米紙ウォールストリート・ジャーナルに流出する騒ぎが起きた。おそらく外国人幹部が自分たちの検討内容を既成事実化しようともくろんだものと考えられるが、いままでこうした極秘ペーパーそのものが外部のメディアに横流しされた経験がなかった孫氏は激怒。「いったい、なんでこんな資料がそのまま外部に出るんだ」と怒り呆れ、日本人幹部と異なって、外国人幹部の忠誠心の薄さに改めて驚いたようだ。
この昨秋以降、いつも意気軒昂の孫氏がふさぎ込むことが増えたらしい。「なんだか孫さんは失敗したかなと思い始めているようでした。愚痴をこぼすことがずいぶん増えましたね」とソフトバンク関係者は打ち明ける。
こうした軋轢を緩和させる狙いで、外国人幹部と日本人幹部の所掌を分け、そのうえで全体を統括する格好で孫氏が「組織改編を一任」された格好だ。なんでもかんでも自分の思い通りにやってきた孫氏に、改めて組織改編の時期や移行方法が「一任」されたと公表している点は、きわめて異例と言える。内部の対立が激化し、板挟みになった孫氏が落としどころを考えざるをえなくなったのではないだろうか。
なかなか姿を見せないソフトバンク2・0だが、海外と国内を明確に分けたことで、国内事業はいちいち外国人幹部とコミュニケーションをとらずに進めることができそうで、円滑化が見込まれるだろう。と同時に、このところ「音なし」だった海外事業が思い切った投資や新規事業に乗り出すかもしれない。新生ソフトバンクはようやくスタート台に立った格好だ。