独フォルクスワーゲン(VW)が引き起こした排ガス不正問題の一つの焦点は、世界の主要市場で今後さらに強化される燃費規制、排ガス規制に対応するための「ポスト・ディーゼル」の技術が何なのかという問題である。既にソクラでは、短期でハイブリッド車、中長期ではプラグインハイブリッド車、更に先は水素燃料電池車と報じた。
しかし、他にも有望な解決策がないわけではない。
その一つがHCCIだ。
Homogeneous-Charge Compression Ignitionと呼ばれる技術。具体的には、ディーゼルエンジンのようにスパークプラグを使わず燃焼室で空気と燃料の混合ミックスを高圧で圧縮して着火する。つまりガソリンエンジンとディーゼルエンジンを融合した燃焼機関だ。
利点は30%とも言われる燃費向上。つまり電気を使ったハイブリッド機構と同様の燃費がガソリンだけで達成出来るという事だ。ハイブリッド車のガソリンエンジンの替わりに使えれば、ハイブリッド車の燃費、排気性能はさらに飛躍的に向上する。理想的な「ディーゼル(型)エンジン」と言ってもいい。
問題は、日米欧各社の長年の研究開発にもかかわらず未だに商業化ができていないこと。商業化ヘの困難は多面的ではあるが、簡単にいうと低回転と高回転でエンジンシステムが上手く回らない。従って研究所から公道への最後の難関を通過できずにいる。
その混沌とするつばぜり合いから抜け出せるメーカーに「ポストディーゼル」での闘いに勝利できる可能性が出てくるわけだ。
一般的には研究費が比較的ふんだんに使えるトヨタ、ゼネラルモーターズ(GM)、VW、もしくはガソリンエンジンで実績のあるホンダ、BMWなどの企業が有利と考えられるが。HCCIはある程度確立された既存の技術の進化で商業化できる技術ではない。従って、1970年代に(当時は大企業とは言い難い)ホンダがCVCCと呼ばれる「環境エンジン」で飛躍したように、HCCI商業化に必要なブレークスルーが思いもよらぬ企業によって達成される可能性は否定できない。
事実、ソクラの取材によればHCCI商業化に最短距離にいるのは内燃機関で最近実績を積んできたある日本の中堅自動車企業であることが分かっている。既に自動車の評論家、アナリストに「HCCI」とは呼ばずに量産車として設計したHCCI車を披露したという情報もある。
このポストディーゼルのディーゼル型ガソリンエンジンとはいったいどんな技術なのだろうか?
HCCIは、ディーゼルとガソリンの中間で、ガソリンと空気をシリンダーと呼ばれるエンジンの燃焼室に直接導入し、ディーゼルエンジンのようにこの混合ミックスを圧縮し燃焼室内の温度を急上昇させ、その熱で自己着火させる技術である。初期的な研究は1970年代に始まり、1990年代後半以降は世界の主要自動車メーカーが本格的な研究を開始した。これまでのところ商業化へ向けての競争は「デッドヒート」といわれている。
VW不正事件を受けた今後さらに強化される燃費規制、排ガス規制。一つの重要な「解」であったディーゼルに替わる技術が何か。自動車産業界の大きな関心事である。
そのなかでディーゼル並みの燃費が期待でき、しかもディーゼル排気で最も問題になるNOx(窒素酸化物)の排気が極めて少量か皆無であるHCCIエンジンにかかる期待は、あまり知られてはいないが現在ひそかに高まりつつある。