「140年の歴史で最大の危機」と社長自身が株主総会で口にするほどだから、東芝の不正会計問題の根は相当に深い。今後の焦点は短期的な収益回復策よりも、不正会計を生んだ土壌に潜んでいる経営トップをはじめ経営陣に蔓延する無謀な事業戦略の見直しだ。
まずメスを入れるべきは安値受注で案件獲得に走る「ゼネコン体質」である。第三者委員会(委員長=上田広一・元東京高検検事長)の調査であぶり出された赤字案件の1つに東京電力から13年に受注した「スマートメーター用通信システム」がある。
電力データをリアルタイムでやり取りできるのが特徴で、東芝はこの分野で実績のあるスイスのランディス・ギア社を11年に23億ドル(当時の為替レートで約1860億円)で買収していたこともあり、遮二無二受注を取りに行った。
東電は国際入札の結果を明らかにしていないが、関係者によると、東芝の提示価格は最大のライバルと見られていた日立製作所陣営の4分の1だったという。「ネットワークに弱い」と知れ渡っていた東芝の弱点はシステム運用が始まってすぐに顕在化した。
開発した通信ボードは不具合だらけで今年春先になっても「つながらないスマートメーターが次々に家庭に取りつけられている状況」(通信コンサルタント会社幹部)。技術を伴わない受注は赤字を雪だるま式に増やしていった。
東芝には前例がある。06年に受注し、12年に開発中止に追い込まれた「特許庁基幹システム刷新プロジェクト」。企業から特許や商標の出願を受けたり、取得済みの特許の閲覧や管理を担うシステムで、入札の結果、設計・開発業務を東芝ソリューションが99億2250万円で落札した。
ところが、設計段階からプロジェクトは思うように進まず、稼働開始時期を再三繰り延べたが、完成のメドが立たず、12年に中止が決定。東芝と管理支援業務を請け負っていたアクセンチュアはそれまでに受け取っていた開発費に利子を加えた総額56億円を全額返還した経緯がある。
「東芝は歴代経営トップが霞が関や永田町に強力な人脈があり、それをテコに官公需をふんだんに受注してきた」(大手電機メーカー関係者)。そんな杜撰でアバウトな体質がもはや限界に達していることを今回の不正会計問題は浮き彫りにした。
辞任を表明した田中久雄社長に代わる次のトップの最初の仕事は「官公需頼みからの脱却」という意識改革以外にないのではないか。