失速懸念があった日本の設備投資が戻ってきた。9日朝発表の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)が10月分が前月比で10.7%増と大幅に増えた。リバウンドは鮮明だ。
有力エコノミストのひとりは、「ちょっとできすぎの増加率だが、控え目にみても設備投資への発注が増え始めたことは確実だ」と語る。9月分の「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)前月比の増加率も、7.5%増加で、2ヶ月連続で高い伸びを示している。
もともと、今年度の設備投資は日本経済のけん引役と期待できるほどに強くなると見られていた。企業向けのアンケート調査である日銀短観(9月)で、設備投資計画が6.4%増加となるなど、企業の心積もりである計画ベースの数字は強かった。
しかし、実際に設備投資を発注する動きを捉える機械受注統計が夏場に伸び悩んで、実際には実行されていないとの悲観論が出ていた。
足元の動きは、経営者が設備投資を当初の計画通り実行し始めたことを示している。ぐらついて見えた日本の景気もある程度、底堅さが見込めるということだろう。
なぜ、経営者は先行きを警戒して設備投資の発注を控えていたのか。機械受注が弱くなった時期から推測できるのは、中国経済の変調が原因ではないかということだ。6月末から上海株の変調がはじまり、8月には人民元の切り下げが報じられて、中国ショックとも言われる株価の世界的な調整が起こった。これによって経営者が警戒感を強めたといっていいだろう。
その後は、中国が相次ぐ利下げや景気への配慮発言などで、「中国当局はなんとか手当てをする」との見方が優勢となってきた。日本の経営者の先行き見通しも改善し、いったん手控えた設備投資に回帰したとみていいだろう。
国内要因だけで言えば、次の注目点は春闘で賃上げが高い伸びを示して来年の消費が手堅く推移するかどうか、ということになる。
ただ、日本の設備投資動向を揺さぶった、中国景気、さらにはブラジル、ロシアといった新興国景気は油断ができない。どこも急速に悪化しているのは間違いなく、その悪化ペースは次々と予想を上回っている。特に、日本経済の依存度も高い中国の動向は要注意だろう。年明け以降に中国ショックが再び起こらないとは限らず、来年の世界景気につねに付きまとうリスクであることは間違いない。
設備投資が復活、日本経済ホッとひと安心 |
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次の焦点は春闘の賃上げ率
Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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