三菱自動車の20日の不正発表会見は、ダメージコントロールに失敗したお粗末会見となってしまった。
組織性が高いのかどうかなど不正実行の実態解明の説明が不十分。実態を隠しているような印象を強くした。失敗会見だ。
会見で明らかにした三菱自動車の不正は、燃費試験データを捏造したというもの。自社販売の「eK ワゴン」など2車種、15万7000台と、日産自動車に供給している「デイズ」など2車種、46万8000台の計62万5000台に及ぶ。
ことの発覚は日産自動車が次期共同開発車を開発しようとして試験したところ、公表していた数値との乖離がみつかったという。他社に指摘されるまで不正を見つけられなかったことだけでもお粗末というほかないが、会見では社内調査の中途半端さが目立った。不正が組織的なものに発展する可能性が濃厚との印象はぬぐえない。
不正実行の実態については、検査にあたった第一性能検査部長(2013年当時)が「(不正を)指示した」と自白していることを明らかにした。しかし、その上司や他の関連部署の関与については当人に対し「ヒアリングしていない」という常識では考えられない説明に終始した。
客観的で徹底的な調査を行うためとして「外部有識者の調査委員会を設置しそこに任せる」と発表した。原因、関与した人数は委員会の調査にゆだねるとも説明した。しかし、あまりにも基本的な事実関係もわかっていないと繰り返し、会見では外部委員会の設置を「隠れ蓑」として使っている印象すら与えた。
情報を出し惜しんだのは、なぜか。組織的な不正であるイメージを薄め、できるだけ関係者を限定したかったからだろうか。だとすれば、ダメージコントロールを狙って、かえってダメージを大きくした悪しき会見の典型ということになる。
三菱自動車は過去に2度の大規模なリコール隠しが発覚している。この日の会見の失敗もあって、存続を問われるほどの信用の失墜につながるだろう。
なぜ、不正を働いたのか。単純な疑問にも答えない。外部委員会にゆだねると繰り返した。しかし、不正しなかった場合の本当の燃費では、「(当時の)エコカー減税を受けられなかった可能性が高い」(中尾龍吾副社長)と認めざるえなかった。
つまり減税対象とするための不正操作だった可能性が高い。もちろん燃費のよさで販売を促進しようともしたのだろう。販売・開発戦略にかかわる不正であり、検査部署だけの判断で実行する内容ではないだろう。今後、不透明な部分に関する取材と報道合戦が繰り広げられるのは確実だ。連日のように会社の「悪行ぶり」が報じられていくことになりかねず、会社の信用失墜にこれほど効果的な道筋もほかにないだろう。
財務の面でも深刻な影響がある。60万台に及ぶ対象車の購入者への補償は必須だが、単に損をさせたガソリン代の試算と慰謝料だけで済むのか。「正直さ」に疑いが強まったいま、賠償請求訴訟の提訴が十分に想定される。また、不正に減税を得ていたとなると、その返済もすべて三菱自動車の負担になる。
不正そのものも常識外の内容だが、ダメージコントロールに失敗したツケは、あまりにも大きいというほかはない。
三菱自動車、存続問われるお粗末会見 |
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燃費試験で不正、ダメージコントロールに失敗
公開日:
(ビジネス)
会見する相川社長=Reuters
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土屋 直也:ネットメディアの視点(ニュースソクラ編集長)
日本経済新聞社でロンドンとニューヨークの特派員を経験。NY時代には2001年9月11日の同時多発テロに遭遇。日本では主にバブル後の金融システム問題を日銀クラブキャップとして担当。バブル崩壊の起点となった1991年の損失補てん問題で「損失補てん先リスト」をスクープし、新聞協会賞を受賞。2014年、日本経済新聞社を退職、ニュースソクラを創設
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