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スガノミクス 手法は強権? 本質は新自由主義

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立候補会見で地銀と中小企業をカギに挙げたが

公開日: 2020/09/11 (政治, ビジネス)

立候補会見で地銀と中小企業をカギに挙げたが

岸井 雄作 (ジャーナリスト)

  病気を理由に辞任する安倍晋三首相の後継を争う自民党の総裁選がスタートし、石破茂元幹 事長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長の3氏による論戦がスタートした。とはいえ、安倍政治 の継承を掲げ主要7派閥のうち5派閥の支援を受ける菅氏の圧倒的優位は揺るがない。

 総裁選告 示前後の会見などで、菅氏の政策の輪郭も浮かび上がってきた。そのなかでも、政権に就けばス ガノミクスと称せられるかもしれない経済政策について占ってみた。

 菅氏は「アベノミクスを引き継ぐ」と言明しており、異次元緩和と呼ばれる日銀の超金融緩和政策 を引き継ぐほか、規制改革の徹底など、従来の政府の方針を基本的に踏襲していくことになるだろ う。この点、アベノミクスを共に進めてきた岸田氏が基本的に評価しつつ、格差が拡大したとして、 その是正を主張。

 また、3候補そろって地方重視を掲げるが、石破氏は低所得者支援とともに、特 に、安倍内閣で地方創生相を務めたことも踏まえ、東京一極集中の是正を訴えている。

 菅氏の主張で、「独自色」と言えそうなキーワードが、この間の会見などで2つ出た。「地方銀行」 と「中小企業」だ。経営力が弱いから強化するということだが、行政権力で「上から」の政策となりか ねないものだ。

 経済政策的には、この2つは密接に絡み、菅氏の問題意識としては「活力ある地方 創生」の具体化という位置づけだろう。日本経済のありように大きくかかわるテーマといえるので、こ れを中心に考えてみたい。

 菅氏は9月2日の会見で、日銀の異次元緩和の副作用で金融機関の経営が厳しくなっているこ とを問われ、「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と述べ、3日の会見 でも「個々の経営判断の話になるが、再編も一つの選択肢になる」と踏み込んだ。

 地銀など地域金融機関は、超低金利で利ザヤが極めて薄くなっている。そもそも人口減少、地 域経済の冷え込みで、緩和でマネーはあふれても、有効な貸し出し先自体が細り、地銀などの経 営は厳しい。上場する地方銀行78行・グループの2020年3月期の連結最終損益は、57行が減益 となり、3行は赤字転落。4~6月期も、6割にあたる46行が減益、2行が赤字という有様だ。

 安倍政権は地域経済と地銀がそろって弱っていく状況に対し、再編を進める方針を明確にし、 地銀の合併や経営統合については、独占禁止法の適用除外とする「特例法」を2020年5月に成立 させた。

 ふくおかフィナンシャルグループ(FG)傘下の十八銀行(長崎市)と親和銀行(長崎県佐世 保市)の合併をめぐり、公正取引委員会が、同一県内の合併で寡占状態が生まれると競争が制限 され、融資先に不利益になることを懸念してする公正取引委員会が、ストップをかけ、債権を他の 金融機関に譲渡するなどしてシェアを下げてやっと認められた(2020年10月合併予定)。

 公取委 と、金融機関の経営健全化を図る金融庁の間を調整して「特例法」に導いたのが菅氏だった。 その意味で、菅氏が地銀再編に踏み込むのは、従来の政策の踏襲であり、また自身の「思い入 れ」の故かもしれない。

 ただ、行政が「上から」再編を進めるというのは、注意が必要だ。これについて、菅氏が師と仰い だ故・梶山静六元官房長官が、銀行の不良債権を一気に処理する「ハードランディング」を主張し たことと重なる部分がある。

 1998年、参院選敗北で退陣した橋本龍太郎政権の後釜を争う自民党 総裁選で、後継首相に就いた小渕恵三氏と対立し、小渕派を割って立候補したのが梶山氏で、菅 氏は梶山と行動を共にした。

 不良債権問題は小泉純一郎政権で、竹中平蔵金融担当相の下、実質的にハードランディング 政策が採用された。厳しい銀行検査で融資先を不良債権と認定し、貸倒引当金を積ませ、あるい は債権を売却させるという圧力で、資本不足に陥った足利銀行などの地銀の破綻が相次ぎ、大手 行にも公的資金が注入され、東京三菱とUFJ(現三菱UFJ)、住友とさくら(現三井住友)、日本興 業、第一勧業、富士(現みずほ)など合併・再編が進んだ。

 この過程で、貸出先についても「ゾンビ企業(銀行の支援によって生きながらえている非生産的 な企業)」の淘汰が必要だとして、大企業でもダイエー、カネボウなどが破綻に追い込まれたほか、 融資先の中小企業には「貸しはがし」の嵐が吹き荒れ、企業倒産が増加した。

 この時の金融行政の評価は様々で、不良債権処理によりその後の日本経済再生につながった として、小泉政権の成果とする声がある一方、必要以上に企業(特に中小企業)を倒産させたとの 批判も根強い。

 当時、現場で主に中小企業を取材していた経験から、筆者の評価は否定的だ。金融機関は不 良債権処理を当局に迫られると、自ら生き残るために情け容赦なく貸しはがしに走った。それで倒 産の憂き目にあった中小企業を多く見た。

 金融機関の健全性を第一義に考える金融行政の限界 ではないか。 小泉政権時代からすると、金融行政も、銀行を恐れさせた検査のベースになる「金融検査マニュ アル」はもはや廃止され、銀行が自ら考えて、地域で企業に資金を供給し、自身の経営の健全性 も守るという方向に変わっているが、金融検査がなくても行政の圧力は様々にある。

 そこで、地銀の貸出先である中小企業だが、菅氏は9月5日の日経新聞のインタビューで「足腰 を強くしないと立ち行かなくなってしまう」として、「中小の再編を、必要であればできるような形にし たい」などと述べ、6日の会見では「中小企業の足腰を強くする仕組みを作る」と述べた。

 菅氏の真意がどこにあるかは必ずしも判然としないが、中小企業は非効率という固定観念が根 底にある可能性が強い。この発言を引き出した日経新聞はインタビューを詳報した6日朝刊3面の 記事で、企業数の99.7%(358万社)を占める中小企業(小規模事業者を含む)の労働生産性の 中央値は大企業の585万円に対し、中規模企業326万円、小規模企業174万円との数字を示し、〈 中小企業の低生産性が日本経済の効率化の足かせになっている〉〈合併などで企業規模を大きく すれば経営の効率化や生産性の向上、研究開発や投資の拡大などが図やすくなる〉などと、菅氏 の主張を解説している。

 中小企業が非効率という〝古典的議論〟は日経新聞が常々主張しているが、単純に割り切れ る話ではない。巨大設備を少人数で動かしている大工場と、細かい部品などを労働集約的に作っ ている町工場を単純比較しても、意味がない。

 国単位の産業構造で考えても、自動車など大メ ーカーのもとに何万社もの中小サプライチェーンが連なるモノづくりが栄えている国(日本はこれだ )と、自動車関連などのメーカーは存在感がほとんどなく、低税率で国際的な巨大IT企業や金融業の本社機 能を誘致している欧州やアジアの小国とでは、生産性を比べれば後者良くなるのは当たり前だ。そ れで国の経済力の優劣を測れないのは言うまでもない。

 日本の中小企業の層の厚さが、日本経済 の強みとも評される。 もちろん、一般に大企業の方が効率はいいが、取引条件で、力の弱い中小企業が不利な扱い を受けるなど、中小企業の付加価値の一部が大企業に不当に奪われていることも中小企業の生産 性を下げる一因との指摘もある。

 そもそも日本の中小企業政策は「多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な 就業の機会を提供し、個人がその能力を発揮しつつ事業を行う機会を提供することにより我が国 の経済の基盤を形成しているもの」(中小企業基本法第3条)との位置づけで行われている。

 「2020 年版中小企業・小規模偉業白書」も、中小企業の実態は極めて多種多様であり、期待される役割 や機能を意識した支援策が必要だと強調している。 その中小企業は近年、経営者の高齢化を背景に、後継者難が最大の問題になっていて 、M&A(合併、買収)による事業継承も拡大している。合併による規模拡大も、その中の一つの要 素ではあるが、規模拡大自体を目的にしたM&Aとは発想の次元を異にするものだろう。

 地銀や中小企業の再編を掲げる菅氏の経済政策は、規制緩和の推進など他の政策項目と並 べて眺めると、新自由主義的とみるのが妥当だろう。菅氏のスローガンである「自助、共助、公助」 も、「まず自助」と強調する辺りは、これに通じる。格差是正や、低所得者支援を中心に訴える岸田 氏や石破氏とは趣が異なる。

 同時に、政策の進め方は「民間に任せる」という自由放任ではない。むしろ、梶山氏のハードラ ンディングに通じる行政権力を駆使する「強権的」な臭いがするのが菅氏の流儀ではないか。
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岸井 雄作(ジャーナリスト)
1955年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。毎日新聞で主に経済畑を歩み、旧大蔵省・財務省、旧通商産業省・経済産業省、日銀、証券業界、流通業界、貿易業界、中小企業などを取材。水戸支局長、編集局編集委員などを経てフリー。著書に『ウエディングベルを鳴らしたい』(時事通信社)、『世紀末の日本 9つの大課題』(中経出版=共著)。
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