社長人事に公式がなくなった。副社長などのナンバーツーから順送りで社長にするやり方はとっくに廃れているが、それでも取締役以上から選ぶのが普通である。最近目立つのは、取締役になっていない執行役員から一足飛びに社長というケースだ。安永竜夫執行役員(54)を4月1日付で、社長に32人抜きで抜擢する人事を発表した三井物産は代表的である。
富士通も田中達也執行役員常務(58)を19日付で執行役員副社長に昇格させて6月22日付で社長に起用すると発表した。取締役会メンバーから執行役員までの執行部の役員序列で数えると15人抜きになる。こうした抜擢人事は通常、会社が危機に陥っているなどの特別な事情による場合が多い。ほかによくあるのは創業家出身者のケースである。
三井物産はいずれにも当てはまらず、さらに三井グループの中核企業で伝統のある大企業である。役員層の人材が特に薄いとは思えない。背景にあるのはやはり経営環境の変化である。言うまでも無く、経済がグローバル化して競争は激化し事業の寿命も短くなった。
社長を決めるのに、もはや長幼の序や従来の慣例に従っている場合ではない。あらゆる前提を排除して、その時、トップとして最適と思われる人材を選ばざるを得ない時代なのだろう。三井物産と富士通で次期社長に内定した人物はともに、海外商戦で実績を上げてきた点で共通している。
4月1日から「社長」になる三井物産の安永氏は、6月の定時株主総会と引き続き開く取締役会で選任されて「代表取締役社長」に就任する。富士通の田中氏は6月の定時株主総会と取締役会で選任されるまで「執行役員副社長」だが、山本正巳社長は記者会見で、田中氏には「次期社長として4月から実質的な業務執行責任を担ってもらう」と述べている。早めに交代を発表して準備させ、新年度入りする4月から事実上のトップとして仕事を始めてもらうわけだ。
昨年、武田薬品工業が外国人を、サントリーホールディングスがローソンから、それぞれ新社長を招き、「プロ経営者」の登場と騒がれた。これらも同じ流れである。ただしサプライズを伴う方法にはリスクがある。今までの業務で実績があっても、社長の仕事はまた別である。下の序列や外部から選ばれた社長には、先輩を含め社内からの抵抗も予想される。前任者による院政の可能性もないわけではない。そうした懸念を超えて、社長人事は公式無き時代に入ったといえよう。
公式なき社長人事の時代 |
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【企業探索④】経済がグローバル化し、競争が激化、事業の寿命も短く。長幼の序や従来の慣例に従っている場合ではない 森一夫
公開日:
(ビジネス)
三井物産の安永竜夫新社長(共同通信社)
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森 一夫(経済ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1950年東京都生まれ。72年早稲田大学政経学部卒。日本経済新聞社入社、産業部、日経BP社日経ビジネス副編集長、編集委員兼論説委員、コロンビア大学東アジア研究所、日本経済経営研究所客員研究員、特別編集委員兼論説委員を歴任。著書に「日本の経営」(日経文庫)、「中村邦夫『幸之助神話』を壊した男」(日経ビジネス人文庫)など。
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