“混迷を極めた”としか言いようがない。不適切な保険商品の販売で揺れるかんぽ生命の問題は、監督官庁である総務省トップの辞任劇にまで発展した。巨大なインフラ組織である日本郵政グループのかじ取りはどうなるのか、現在の経営陣は総退陣しなければ事態の収拾は望めないほどの危機的事態だ。焦点は、再建を託される後任人事に移る。
「非常事態」 20日に緊急記者会見に臨んだ高市早苗総務相は、こう言い残して会見場を後にした。かんぽ生命の不適切な保険販売を巡る行政処分の検討状況について、事務方トップの鈴木茂樹事務次官が、処分を下される側となる日本郵政グループの鈴木康雄・上級副社長に漏らしていたことが発覚し、辞職を申し出たのだ。高市氏は「旧郵政省採用の先輩後輩の関係の中で情報提供してしまったのだろう」と語り、「公平性・中立性に甚大な影響を及ぼし、行政の信頼を失うものだ」と陳謝した。事実上の更迭と言っていい。
一方、金融庁は、不適切な保険販売を受け、かんぽ生命と日本郵便に対して、保険業法に基づく保険販売の業務停止命令を出す方向で検討に入っており、27日にも発出される見通しだ。3カ月程度の業務停止となると見られる。
金融庁はあわせて持株会社の日本郵政に対しても業務改善命令を出す方向で検討している。総務省も日本郵政と日本郵便に業務改善命令を出す見通しだ。これに伴い、年明けの1月から目指していたかんぽ生命の販売再開は延期されよう。
金融庁は今春、かんぽ生命の販売手法に不正が疑われる点があるとして報告徴求命令を出した。さらに9月からかんぽ生命と日本郵便に検査に入るとともに、日本郵政の幹部からも聞き取り調査を進めてきた。その結果、顧客に不利益を与えた可能性があるとかんぽ生命と日本郵便が公表した約18万3000件の「特定事案」以外にも不正な契約が見つかった。
金融庁は、不正の背景には過剰なノルマや顧客軽視の企業風土があると分析しており、顧客に不利益となる契約のチェックなど、現場で起きていることが上層部に伝わらなかった組織体制に問題があると見ている。
一方、日本郵政グループも外部の弁護士でつくる特別調査委員会を立ち上げ、問題の原因を調査している。18日には日本郵政グループの特別調査委員会が中間報告書をまとめ、弁護士による記者会見が行われたのに続き、日本郵政、日本郵便、かんぽ生命の3社トップによる記者会見が開かれ、実態調査の現状報告が行われた。
金融庁による業務停止命令という厳しい行政処分が下される見通しとなった今回の問題。今後の焦点は日本郵政グループの経営責任に移ることになる。この点について、金融庁幹部は「経営責任の明確化は自らの問題。われわれが首をとるという行政処分はない。自分たちで考えること」と指摘する。
業務停止命令を受けて、日本郵政グループの経営陣がどう考えるのか。経営責任の対象者をどこまで広げるのかが焦点となるが、経営陣の総退陣は避けられないとの見方が大勢だ。日本郵政グループの事実上の差配者とみられる鈴木康雄上級副社長も、今回の情報漏洩の当事者であり、辞任は不可避と見られる。
その場合、その後任をどうするかという悩ましい問題が残る。日本郵政グループ各社の経営は、ステークホールダーが多岐にわたる巨大組織だけに、その運営は容易なことではない。簡単に人材がみつかるというものではないことは確かだ。
現在の日本郵政グループの各トップには民間金融機関出身者が就いているが、金融庁幹部は「民間金融機関から後任者がでることはないだろう」と周囲に語っている。また、情報漏洩に伴う総務省事務次官の更迭に関連して、高市総務相は「郵政グループの取締役に旧郵政省採用のOBが入ることはマイナスが大きい」と語っていることから、官僚OBの起用も難しい。残るは事業会社からの起用が有力となる。
政界からは、「安倍首相を囲む『四季の会』『さくら会』の財界メンバー、もしくはその人脈を介して人選が進んでいるのではないか」との見方があり、「有力なトップ候補として、JR西日本副会長の来島達夫氏の名前が挙がっている」(財界関係者)との情報もある。
いずれにしても日本郵政、かんぽ生命は株式を上場しており、市場の厳しい目にもさらされる公開企業だ。また、ゆうちょ銀行も含め、国が保有する日本郵政グループの株式売却益は、東日本大震災の復興財源に充てられることが決まっており、追加の株式売却も視野に入る。これ以上の企業価値の低下は許されない。
郵政トップにJR西・来島副会長の名も |
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総務次官まで飛ばした日本郵政、総退陣の方向、鈴木上級副社長も
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(ビジネス)
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森岡 英樹(経済ジャーナリスト)
1957年生まれ、 早稲田大学卒業後、 経済記者となる。
1997年米国 コンサルタント会社「グリニッチ・ アソシエイト」のシニア・リサーチ ・アソシエイト。並びに「パラゲイト ・コンサルタンツ」シニア・アドバイザーを兼任。2004年 4月 ジャーナリストとして独立。一方で、「財団法人 埼玉県芸術 文化振興財団」(埼玉県100%出資)の常務理事として財団改革に取り組み、新芸術監督として蜷川幸雄氏を招聘した。 |
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