相次ぐリコールに揺れるホンダ |
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自前主義から舵をきった社長の元を元幹部が次々と訪れ、苦言を呈している。伊東社長早期退任説も出てきた。 代沢重次郎
公開日:
(ビジネス)
伊東社長(Reuters)
ホンダがリコール(回収・無償補修)の嵐に翻弄されている。10月23日に昨年モデルチェンジをしたばかりの小型車「フィット」の5度目のリコールを発表した。2011年以降、原動機付二輪車「スーパーカブ」でもリコールが5回続いている。
さらに、今期の業績見通しは、海外への生産移転が進んだことから円安を享受できず、売り上げも純利益もそれぞれ数百億円単位で減る見通しだ。
輪をかけるように、ここ数年米国で燻っていたタカタ製エアバッグの品質問題で、米高速道路交通安全局が対象になるタカタ製のエアバッグの全米規模での強制リコール(回収・無償修理)を11月下旬に要求した。
タカタ製エアバッグの搭載率の高いホンダに対する圧力が高まっている。たまらず、伊東孝紳(61)社長は日経新聞の取材に応じて、原因究明を待たずに実施する調査リコールを全世界に広げると表明した。
伊東社長があえて、取材に応じたのは社内外の動揺があるからだろう。役員OBから心配する声が上がり、社長5年目の伊東氏が任期前に退陣するとの見方も浮上しはじめている(過去のトップの任期は5年から6年)。
この観測に油を注いでいるのが元社長や幹部が伊東社長を次々とホンダ本社に訪れ、苦言を呈していることにある。昨年末に本社を訪れた1998年から2003年まで社長を務めた吉野浩行(75)氏は、自動車工業会の会長への就任に意欲を示す伊東氏に本業に集中するように助言した。
10月には続発するリコールにたまりかねた元社長の川本信彦(71)氏も青山本社を訪れ、伊東氏と怒鳴りあったという噂まで飛び交っている。一方、ホンダの「影のドン」といわれる元副社長の雨宮高一氏もたびたび伊東氏を激励に本社に現れているという情報もある。
事情通の複数の関係者によると、伊東氏に批判的なホンダOBは、品質低下に象徴されるホンダのたるんだ経営にただ「かつ」を入れに来たわけではない。背景には、OB役員を巻き込んだホンダのあり方にたいする議論がある。
同社の創業者である本田宗一郎氏が世を去って23年、本田氏の夫人さちさんも去年亡くなった。本田家の影響が薄まるなかで「ホンダの新しい出発」を模索する伊東氏に対して、ホンダの歴史否定をしようとしているのではないかという疑問がOB役員にはある。
品質問題以上にOB幹部や首脳にはそんな苛立ちがある、と最近伊東氏と話し合ったホンダの幹部が言う。
象徴的にOB役員連が問題にするのは、伊東氏の「非自前主義」の調達改革がある。伊東氏には、日本の自動車メーカーがその品質と生産効率で世界市場を凌駕した時代はすでに終わったという基本的な考え方がある。
たとえば米国市場を例に取ろう。少なくとも新車の品質に関しては、購入したGM車やフォード車が故障を繰り返し返品しなければならないという時代は遠い過去となった。上位メーカーと下位メーカーの品質差は15―20年前に比べれば「誤差程度」といわれる時代になっている。
競争の根幹は、品質や効率から先端的な技術へと移行した。さらに言えば、いかに燃費がよく見栄えのいいカッコイイ商品を安い価格で提供できるかという競争し変化した。
そんな時代の到来を意識した伊東氏が就任以来強力に推し進めてきたのが調達改革だ。特異性の小さい部品に関しては系列からの調達をやめ、コストを重視しメガサプライヤーに切り替える手法だ。
たとえこれまで培ってきた株式会社ケーヒンなどの系列企業との関係が薄まることになっても、コストを重視し、ホンダの経営資源を先端技術に集中するということである。この伊東氏の路線を鮮明に現しているのが、今年3月に行われた電子制御の開発を担ってきた子会社「ホンダエレシス」の日本電産への売却である。
OB役員の間で、この系列改革をホンダが育んできた自前主義文化の全否定と受け取るふしがある。もちろんOB役員に賛同する見方が社内にないわけではない。
事実、系列外から調達した制御技術と自社開発のハイブリッドシステムとのすり合わせが上手く行かなかった例がある。たとえば、「フィット」だ。同車は約一年間に5度のリコールを繰り返した。
この例が示すように、伊東氏の改革が必ずしも上手く行っているわけではない。それを理由に、伊東の非自前主義は失敗だったとする向きが社内にもある。
多くのホンダ幹部は依然として伊東氏の改革の意図が間違っているわけではないとする。伊東社長は任期を全うし、雨宮、吉野、川本に近いとされる社内の幹部の影響を排除しながら、初代「フィット」の開発者として知られる松本宣之常務を改革の後継者として選任する布石を社内で打ち始めているという。
布石として、関係者によると、峯川尚専務執行役員を来年にも副社長に昇進させる。峯川氏は伊藤社長の非自前主義の調達改革を受け継ぎ、新社長と改革を深化させていくのだ、と関係者はいう。この人事が実現するかどうか。伊東体制の行方はまだまだ不透明だ。