物言う株主として知られる米投資ファンドのサード・ポイントがスズキ株を取得していた ことが3日明らかになった。サード・ポイントが7月31日付で投資家向けに送付した書簡でスズキ株の保有を明らかにした。投資額や保有比率は明らかにしていないが、5%未満とみられる。
書簡でサード・ポイントは、スズキが56%を出資するインド子会社のマルチ・スズキに詳しく触れている。インド市場は高い成長が見込まれるにもかかわらず、その価値がスズキの株価に反映されていないと指摘する。そのうえで、スズキの新興国に向けた低価格車のずば抜けた技術などに言及している。
しかし、投資家向けの書簡にはもちろん記載できないサード・ポイントの「読み」もある。それこそが、「投資の本当の理由」というわけだ。
複数の関係者によると、それは、スズキが必死で進めてきたフォルクスワーゲン(VW)が所有する自社株を、年内には買い戻せるメドがたった点だ。フォルクスワーゲンは所有するスズキ株を放出する用意があることを既にスズキ側に打診しており、スズキも株式買戻し後の戦略について構想をすでに練っているという。
サード・ポイントがスズキ株式の取得に踏み切った「本当の理由」はこの「ポスト・フォルクスワーゲン」の体制にある。
具体的には、フォルクスワーゲンから自社の株式19.9%分を買い戻すには時価でも約5000億円ほどになる。交渉の結果次第では、大量の株式売却であるためのプレミアム(上乗せ金)を含め、必要な資金は6000億円を超えるともいわれている。
この6000億円とも言われる資金の一部を調達するために、スズキはフォルクスワーゲンに代わる新しい友好的な投資家・パートナーを探している、とスズキとサード・ポイントに近い関係者はいう。あらたな株主が現れれば、株価にはプラスというのがサード・ポイントがスズキ株を買い進めている「読み」だろう。
関係者の一人は、「いろいろな人の話を聞いていた。フォルクスワーゲンと離婚したあとスズキが誰と一緒になるのか?その中で出てくるのはトヨタの名前。トヨタではないかという声が自動車関係者のなかからかなりある」、という。
「フォルクスワーゲンは9月か11月にスズキを手放すことを内々に決めている。監査役会が9月か11月のタイミング。年内にスズキの株を放出するということは内々に決めています」
スズキは社長交代があったとはいえ、未だに1978年から社長としてスズキを引っ張って来た鈴木修前社長の影響下にある。修前社長は「トヨタ嫌いと」一部でささやかれる。スズキが本当にトヨタ傘下入りを決めるか否かは不透明である。
トヨタ以外にも国外でスズキの新しい投資家を探す動きが社内外にある、と関係者はいう。むしろ、トヨタよりも可能性が高いのは中国の投資家。スズキの中国市場でのパートナーである長安汽車という名前も挙がっている。
新興国市場への進出を目指す中国の自動車メーカーにとっても、同市場で先行するスズキは魅力の会社である。マルチ・スズキは、得意とする50万円ほどの小型車「アルト」を 武器にインド市場で45%のシェアを持つ最大手だ。独フォルクスワーゲンも2009年に新興国での同社の業績を強化するためにスズキと戦略的な提携関係の構築を目指し、スズキの株を19.9%取得した。
トヨタもインドなどの新興国市場での低価格車の開発に手間どり、グループ会社であるダイハツへの協力を去年要請した、という報道もある。
スズキ広報は、今回のサードポイントによる株式所有について、特定の株主に対して「コメントすることはない」とする。そのうえで、「株主との建設的な対話を通じて持続的な成長と、長期的な企業価値の向上を図りたい」としている。
サードポイント ダニエル・ローブ氏が率いる投資ファンドだ。これまで日本では、ソニーやファナックなどの株式を取得し、「物言う株主」として、株主還元の強化や経営改善などを要求してきた。