日本航空と全日本空輸による航空業界の独占を破り、航空自由化の旗手だったスカイマークが経営破綻した。新聞、テレビはその後、続々参入した格安航空会社(LCC)との競合や西久保慎一社長の独断専行による経営戦略の失敗とかき立てるが、破綻の本質はそこにはないだろう。新規参入者が成功するには、業界の既存企業にない強みを持つか、市場が急拡大している、という条件のどちらかがなければならないからだ。そもそも航空新規参入は日航、全日空に料金引き下げを迫る「当て馬」航空行政に過ぎなかったのだ。
日本の内需は老人介護など高齢者向けや健康関連を除けばほとんどがマイナスか、飽和状態にある。国内航空旅客も2007年度をピークに減少している。年によって多少の持ち直しはあっても国内旅客数はすでに減少過程に入っている。さらに北陸新幹線が今年3月に開業すれば、小松、富山両空港の利用客が減るのは確実。さらにドル箱の羽田から新千歳など北海道向けにも北海道新幹線の開業が響き、国内航空旅客の縮小に弾みがつきかねない。
スターフライヤー、ピーチ、エアアジアなど新規参入組はもちろん、国内を収益基盤とし、国際線では赤字垂れ流しの大手2社も実は経営の先行きは暗いのである。スカイマークだけがダメになったわけではなく、国内市場の縮小にまず目を向けるべきだろう。LCCのエアアジアやセブ航空が伸びた東南アジア、キングフィッシャーが躍進したインドなどは国内、域内の航空需要が2ケタの勢いで伸びているからこそ、LCCが急成長できたのだ。
一方、全日空が国内で着実に利益をあげ続け、日航が5年前に経営破綻しながら復活できたのは東京一極集中で羽田空港の発着枠が既得権として機能し、羽田から新幹線もない地方都市への便が利益の下支えをしたからだ。航空需要が減るなかで、日航は昨秋、羽田から出雲への便を増便し、1日6便にした。国内有数の過疎県、高齢者県こそ大手2社にとって「濡れ手に粟」で、利益を支えているのである。本来ならそうした1社独占路線に多くの新規参入が路線を作れればいいが、羽田の発着枠の割り当てが少ない以上、旅客数にぶれのない札幌、福岡などの路線に飛ばしたい。それも集客を安定させるためには大手2社との共同運航便にするしかない。スカイマークが破綻不可避の土壇場で、大手2社との提携、共同運航を模索したのは集客の安定化の難しさを映し出している。
破綻した日航の経営改革をやり遂げ、復活を支えた立役者で京セラの創業者、稲盛和夫さんは長距離電話の新規参入企業である第二電電(DDI)を設立した。DDIと日本テレコムの2社はNTTのシェアを切り取り、新規参入に成功し、さらに国際電話、携帯電話分野の企業と融合していった。そして両社は今のKDDI(au)とソフトバンクに行きついている。なぜ、成功したのか? 国内、国際電話、携帯電話の需要が急増したからだ。通話は今やインターネットに取って代わられた面もあるが、市場の成長は新規参入には欠かせない条件だ。市場が成長しなければ、新規参入者はある時点で既存企業を「小が大を飲む」形で買収しなければ生き残れない。ソフトバンクはある意味でM&Aのタイミングを逃さなかった。スカイマークが破綻したJALを飲み込むことが出来ていれば、航空業界のソフトバンクになっていただろう。
いずれにせよ、規制緩和、新規参入で業界が活性化し、経済成長につながるというアベノミクスの「第3の矢」が虚構であることをスカイマークの破綻は示した。永田町と霞ヶ関が描いた妄想を大手の新聞、テレビが無批判に伝え、国民に幻想を抱かせた罪は大きい。なぜならば、今、電力の小売り自由化で思考停止の企業による新規参入ラッシュが起きているからだ。数年後には電力新規参入者から”次のスカイマーク”が生まれるのは間違いないだろう。
スカイマーク破綻の真の理由 |
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規制緩和、新規参入で業界が活性化し、経済成長につながるというアベノミクスが虚構であることをスカイマークが示した 五十嵐渉
公開日:
(ビジネス)
西久保前社長(右)=Reuters
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五十嵐 渉(ジャーナリスト)
大手新聞記者を30年、アジア特派員など務める。経済にも強い。
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