Newssocraで、連載「深層セブンイレブン」を執筆してきた渡辺仁さんが2月15日、突然、心臓に異変を来し天に召されました。享年64歳でした。
ついこの間まで連絡を取り合い、情報交換のみならず先輩ライターとして多くのアドバイスを頂いてきただけに、悲しく寂しい限りです。
渡辺さんとの出会いは2008年だったと記憶しています。セブン-イレブン裁判の取材先でのことでした。そこから、渡辺さんと私の協力関係が始まりました。大手企業の追及という難しいテーマだけに、ベテランの渡辺さんと協力関係を築けたことは、大きな助けになりました。
渡辺さんの長所は、職人気質で頑固なところでした。徹底的に現場に赴き調査しないと気が済まない人でした。逆に言えば、それが短所で持説にこだわりすぎるところでした。
だが、見解が違うことがあっても渡辺さんは私に「生意気な若造め!」とは言わず、「いやあ、角田君の見方が正しかったねえ」と謙虚に認めてくださることも、しばしばありました。そういうキャラクターが渡辺さんの魅力でした。
渡辺さんに私のお株を奪われて少し悔しい思いもした時もありましたが、それよりは渡辺さんの存在を頼もしく感じていた気持ちが強かったように思います。
渡辺さんの最近の記事はすべてセブン-イレブンでした。親族の方によると、
「セブン-イレブンのオーナーは酷い搾取に苦しんでいる。自殺・過労死・夜逃げが後を絶たない。こうしたことは世に問わなければならない」
と繰り返し言っていたようです。渡辺さんはビジネス誌で記者をしていたことがあり、起業家をテーマにしたベストセラー『起業バカ』(光文社刊)を執筆したこともあります。セブン-イレブンの取材を通じて、厳しいジャーナリストへと傾斜していったように思います。
しかし、視野が狭い人ではなく、経営者であれ労働者であれ、ビジネスマンとしてどう評価するかという現実的な物の見方をする方でした。
若かりし頃の渡辺さんは文学青年で自費出版もしたことがあるという本格的な小説家志望だったそうです。それ故、物事をストーリー化することが好きだったように思います。
会話をすると、「これはどういうことだと思う?」という謎かけをし、こちらがわからないでいると、「これはこういうことなのだよ!」と名探偵が謎解きをするような口調で持説を展開しました。渡辺節は聴いていて飽きることがありませんでした。
最近では「僕は『白い巨塔』の作者山崎豊子さんを目標にしている」と盛んに言っていました。今でも文学青年の気持ちがあるのと、セブン問題を終えたら小説にチャレンジしたいという思いがあったのでしょう。そんな渡辺さんの姿はとても若い私にとって、とても励みになる姿でした。
だが、もう渡辺さんと酒を飲むことも無ければ、喫茶店で打ち合わせすることもありません。
「僕に何かあったら(引き継ぎを)頼むよ」
と渡辺さんは常々私に言っていましたが、こんな突然の別れで引き継ぎの約束を履行することになるとは思いませんでした。
渡辺さんは「24時間働けますよ」といった感じの仕事人間でしたから、過労も一因ではないかな? と周囲の人は思っています。後の仕事は残された我々後輩が引き継ぎます。どうか天国で安らかに過ごして下さい。
義憤に駆られ、セブンイレブンを追及 |
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追悼・渡辺仁(64)さん
公開日:
(ビジネス)
渡辺氏の著書(2009年)
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角田 裕育(ジャーナリスト)
1978年神戸市生まれ。大阪のコミュニティ紙記者を経て、2001年からフリー。労働問題・教育問題を得手としている。著書に『セブン-イレブンの真実』(日新報道)『教育委員会の真実』など。
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