金融庁が埋め込んだ「地雷」が一部の金融関係者の間に波紋を投げている。地雷が埋め込まれたのは今年9月に同庁が公表した「平成26事務年度の金融モニタリング基本方針」だ。
同基本方針は、金融庁が金融業界を監督・検査する際の姿勢を予め示している。埋め込まれたキーワードは、「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任原則)」だ。具体的には、基本方針の3ページ目に「商品開発、販売運用、資産管理それぞれに関わる金融機関がその役割・責任(フィデューシャリ―・デューティー)を実際に果たすことが求められている」と表記され、その状況を監督・検査のうえで検証していくとされている。
フィデューシャリ―・デューティーは、米国の年金の基本法であるエリサ法など米国の年金制度上で明確にされてきた業務受託者(たとえば、年金資金の運用者など)に求められている委託者に対する責任概念だ。一般に業務を規定した法律が問うている善管注意義務よりも重い。その状況を商品開発の考え方、販売姿勢などに関し、金融庁は金融機関の監督・検査の際に確認していくというのが前述の文面ということになる。
たとえば、金融商品取引法のうえでは問題はなくても、顧客に販売した投信について、その販売手数料が不当に高すぎないか、系列の金融機関の利益を優先していなかったか、を問おうとしている。同じ投信販売で販売会社が手数料稼ぎとみえる商品の乗り換えセールスをしているかどうかなどもこれまで以上に厳しく、監督・検査される。
金融庁はかねて、アセットマネジメント会社が系列の銀行や証券会社に回転売買の手数料を落とすなど、投資家保護がおろそかになっているとの問題意識を持ってきた。国内ではそれほど認識されてこなかったフィデューシャリ―・デューティーで、証券業界や銀行業界のなかではこの問題をそれほど重大視していないようなムードがある。
まして、金融庁の基本方針に盛り込まれたこと自体、気づいていない金融トップも少なくない。しかし、基本方針に謳われている以上、金融業界の経営陣は、フィデューシャリ―・デューティーに対して数段、敏感になるべきだろう。もちろん、次々に生み出している金融商品の妥当性を総点検する必要に迫られていることはいうまでもない。