世界では大国が威信をかけて前例のないスピードで開発競争を繰り広げている中で、「日本だけが時代錯誤のワクチン行政を進めている」との批判の高まりからだろうか、政府は「アジアに治験のネットワークを構築し、開発費用も一部負担する」方針を明らかにした(3月10日付日本経済新聞)が、アンジェスが今年夏から海外での治験を始めたとしても、治験終了は来年以降になることは確実である(3月21日付日本経済新聞)。
このことからわかるのは、来年の冬も日本は接種するワクチンを海外に依存することになるということである。ワクチン確保を万全にするため供給源の多様化が不可欠である。
日本ではあまり知られていないが、現在世界で2番目に多くの国で承認されているワクチンはロシアの「スプートニクV」である。
スプートニクVは昨年8月ロシア政府が世界で初めて承認した新型コロナウイルスワクチンだが、第3段階の治験を済ませていなかったことや「国内での接種希望者が少ない」ことなどを理由に「二流扱い」されてきたが、今年2月上旬発売の米科学誌「ランセット」で「スプートニクVの有効性が92%とメッセンジャーRNAタイプと遜色のない有効性が確認される」との論文が掲載されると、その評価はうなぎ登りとなった。
ロシア政府は「年内に7億人にスプートニクVを提供するため、インドや中国、韓国での生産を検討している」としており、ワクチン確保に遅れをとっているEU域内でもスプートニクVの生産が検討されている(3月17日付ロイター)
しかし、この動きを好ましく思っていないのは米国である。ロシアメデイアによれば「米国政府はスプートニクVに関するネガテイブキャンペーンを実施しており、ブラジルのスプートニクV購入を阻止した」という。米国側も「ロシア諜報機関が米国内で使用されているワクチンに関する偽情報を拡散している」と批判するなど非難合戦となっている。
日本でもガルーシン駐日大使がスプートニクVをアピールしているが、ロシア側は「北方領土問題が障害となっている」との見方をしているようだ。
スプートニクVの日本での使用については現段階ではハードルが高いと言わざるを得ないが、かつて日本国内でポリオが大流行した際に旧ソ連からワクチンを緊急輸入し、ポリオ患者数を激減させたというサクセスストーリーがある。ワクチン開発に遅れをとった日本は、ロシア製ワクチンの使用を検討せざるを得ないのではないだろうか。藤 和彦 (経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)
日本はロシアワクチンにどう向き合うか |
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【藤和彦の眼】日本発ワクチンは治験件数で遅れ、ワクチン行政は厳しすぎ?
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(コロナ(国内))
スプートニクV=CC BYMos.ru
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藤 和彦(経済産業研究所コンサルテイング・フェロー)
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣参事官)。2016年から現職。著書に『原油暴落で変わる世界』『石油を読む』ほか多数。
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