45年前の11月15日、パリ近郊のランブイエ城に主要先進国の首脳が会して以来、毎年続くG7(主要7か国)サミットが、今年は新型コロナで開けずじまいだ。それでなくても「アメリカ・ファースト」のトランプ大統領にかき回され、瀕死の状態だったのに。
だが、風前の灯のG7が、同盟国重視のバイデン政権の誕生で、生き返りそうだ。それも「対中国同盟」の色合いを強くして。
1975年にG7を生んだのは「西側の危機」だった。アラブ産油国が仕掛けた石油危機と、西側の盟主、米国の威信低下が重なっていた。73年秋の第4次中東戦争を機に、アラブ石油輸出国機構(OAPEC)が原油価格を爆上げし、先進諸国は、インフレと不況の挟撃に苦しんだ。
米国は、ニクソン大統領がウォ-ターゲート事件で74年夏に辞任。翌75年4月に、サイゴン(現ホーチミン)が陥落し、米軍はベトナムから敗走した。その年の秋、ジスカール・デスタン仏大統領が呼びかけ、ニクソン政権の副大統領から昇格したフォード大統領はじめ米、英、独、仏、伊、日の6か国首脳(カナダは翌年から参加)が、西側の難局を乗り切るべく仏大統領の別荘のシャトーに集まった。
▽アラブ産油国と、ソ連が率いる東側を仮想敵に。
西側の結束は奏功した。経済面では2度の石油危機を克服し、政治面では89年に「ベルリンの壁」が崩れて東側が自壊、旧ソ連は91年に解体した。G7の勝利だった。だが、敵を失くした勝者は得てして混迷する。旧敵ロシアの民主化・市場経済化を助けようと、最初はオブザーバーで、98年のバーミンガム(英)サミットからは、正規メンバーにロシアを迎え入れ、G8に改組した。
だが、プーチンのロシアは西側に同化せず、ウクライナ領だったクリミア併合を機に、2013年にロシアを除名して、G8は元のG7に戻った。
▽新たな危機は、トランプ大統領がもたらした。
初舞台のタオルミーナ(伊)は何とか妥協が成ったが、2回目のシャルルボア(加)で、ロシアの再加入を主張、創設以来のG7のモットー「反保護主義」にも噛みつき、大激論になる。閉会後に「首脳宣言は承認しない」と捨て台詞まで。
そして昨年のピアリッツ(仏)では、首脳宣言を採択できず、議長のマクロン仏大統領が、紙1枚の宣言文書を発表して取り繕った。
今年は主催国の米国が、6月にキャンプデービッドで開催を予定していたが、新型コロナを理由にメルケル独首相が欠席を表明。トランプ大統領が、9月に延期し「時代遅れ」のG7を改組しロシア、インド、オーストラリア、韓国を加える構想を示したが、欧州諸国が反発。「大統領選後に」という選択肢も消えた。45年目にして「サミットのない年」になった。
トランプ再選なら、G7は消滅か、さらに形骸化しただろう。だが、バイデン氏が第46代米大統領に就任すれば、局面は様変わりする。
同盟国を下に見たトランプに対し、バイデン氏は同盟を大事にする。トランプは、温暖化対策の「パリ協定」を離れたが、バイデンは脱炭素投資を目玉公約にし、先行する欧州や、菅首相が脱炭素を明確にした日本と政策協調が期待できる。
さらにG7を結束させるのが中国の存在だ。ある時期まで、中国はG7の分断要因だった。中国が音頭をとったAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立では、欧州勢が競うように参加し、不参加の日米と袂を分かつ。トランプ政権の保護主義的な対中高関税にも、欧州勢は冷ややかだった。
だが、新型コロナで潮目が変わった。英独仏の首脳は温度差はあるものの、情報隠しなど中国の初期対応を批判した。一国二制度をないがしろにする香港への国家安全法導入、新彊ウイグル自治区のウイグル族弾圧にも、批判の声を高める。
バイデン氏を対中国宥和派と見ると間違う。米国の対中新冷戦は、トランプ政権が始めたにしても、今や超党派の支持がある。人権問題に関心が薄かったトランプより、香港やウイグルの問題では、バイデンの方が強く出るかもしれない。
華為技術(ファーウェイ)排除に始まる対中ハイテク包囲網に加わる欧州勢も増えつつある。「デジタル・レーニン主義」とも形容される、ITを共産党一党支配の道具とする監視国家化は、ジョージ・オーウェルのデストピア(反理想郷)小説を思わせ、デジタル化にプライバシー尊重の枠をはめる欧州勢には容認できそうにない。
G7を育んだのは仮想敵だった。トランプ大統領が内から崩しかけたG7の結束を、デジタル技術を借りて独裁権力を強める習近平主席が、再強化させるとすれば・・・・歴史の皮肉というべきか。
「対中同盟」として蘇るG7 |
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【けいざい温故知新】トランプで形骸化したがバイデンで復活へ
2017年、イタリアでのG7サミット=Reuters
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土谷 英夫(ジャーナリスト、元日経新聞論説副主幹)
1948年和歌山市生まれ。上智大学経済学部卒業。日本経済新聞社で編集委員、論説委員、論説副主幹、コラムニストなどを歴任。
著書に『1971年 市場化とネット化の紀元』(2014年/NTT出版) |
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