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急騰する欧州ガス価格――くすぶるロシア陰謀説に証拠なし

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【ロシアと世界を見る目】露独パイプラインの早期稼働狙う?

公開日: 2021/09/28 (マーケット)

 ノルドストリーム1 ノルドストリーム1

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 欧州で天然ガス価格が急騰している。新型コロナウィルス禍が一服し景気が回復し始めたことなど複数の経済的要因によると分析されているが、一部にはロシアが価格上昇を演出しているのではとの疑問を提起する人たちもいる。

 欧州では従来からロシアの資源への依存度が高まることへの警戒感が強く、それがロシア陰謀説に近い見方を生んでいるようだが、今回はさすがにそれを支える証拠はみつかっていない。

 欧州で取引される天然ガスの代表指標であるオランダTTFハブの10月先物は今月一時、1メガワット時79ユーロ、1000㎥あたり1000ドル近くにまで跳ね上がり、ガス価格は2013年以来の高水準が続いている。

 ガス価格高騰は電力会社などエネルギー会社の経営に大きな影響を与え始めている。英国では中小エネルギー会社の倒産も出ているし、欧州の電力会社の中には石炭火力に切り替える動きも出ている。家計にも影響が出るだろう。

 国際エネルギー機関(IEA)は9月21日、声明を出し、ガス価格上昇について解説した。

 それによると、需要の回復、技術的問題などによる供給体制の混乱、異常気象などの要因が重なっている。昨年の欧州の冬が異常に寒く、しかも長期間続き、暖房需要が増えた。加えて、ここ数週間、風が弱く、風力エネルギーをいつものように利用できないでいるという問題もあるという。

 世界的要因も関係している。今年第1四半期には東アジアと北米でも例年にない寒さが続いた。夏は夏でアジアが熱波に見舞われ、ブラジルでは干魃が起きた。こうして世界的に冷暖房需要が増えた。

 供給面では各国で液化天然ガス(LNG)の生産体制が様々な要因で乱れた。

 欧州のエネルギー事情に詳しい専門家によると、欧州では夏に、秋から冬への需要増に備えてガスの地下貯蔵(在庫)を増やすのだが、例年にない需給の乱れから今年は十分に積み増しできないでいる。その貯蔵量はここ10年で最低水準にあり、欧州連合(EU)諸国と英国では貯蔵能力の72%程度にとどまっている。過去10年の平均は85%だった。

 IEAが挙げた価格上昇の要因はすべて経済的要因ばかりで、その中にロシアの政治的あるいは地政学的意図による供給削減や価格操作があるとの指摘はない。

 その一方で、ロシアが何かやっているからこうなっているという説が絶えない。

 欧州議会の超党派議員42人が17日、欧州委員会に書簡を送り、欧州にガスを輸出しているロシアのガスプロムが価格操作している疑いがあるとして、調査を求めた。

 米国務省のエイモス・ホクスタイン・エネルギー安全保障担当上級顧問は22日、ロシアは十分な供給量を確保できているのに、出し惜しみしているとテレビ・インタビューで批判した。ロシアは欧州のエネルギー危機に乗じてノルトストリーム2の稼働を早めようと画策しているとも指摘した。

 ノルトストリーム2とは、バルト海の底を通ってロシアとドイツを結ぶ新しいガスパイプラインで、2018年に着工したが、米国強い反対で工事が延び、今年9月10日にようやく完成した。輸送能力は年550億㎥。

 バルト海には既に2011年に同じ能力を持つノルトストリーム1(実際にはこのパイプラインの名称には「1」は付いていないが、「2」との対比上、「1」を付記した)が稼働しており、ノルトストリーム2と合わせるとバルト海の2つのパイプラインの輸送能力は年1100億㎥となる。

 しかし、パイプラインが完成してもすぐには稼働させられない事情がある。ロシアが関係するエネルギー問題の複雑なところだ。

 稼働にはドイツの規制当局(連邦ネットワーク庁)と欧州委員会の認証が必要で、結論が出るまでに今後、数カ月から10カ月かかるとも言われる。

 その審査にEUが2009年から施行している「第3エネルギーパッケージ」が大きく関係する。それによると、EUではガスの輸送、生産、配送の事業者は別々でなければならない。

 ノルトストリーム2を建設したのはスイスに登録された「ノルトストリーム2AG」でロシアのガス生産者、ガスプロムの完全子会社。ガスプロムはこの子会社がそのまま新パイプラインを運営することを目論んでいたが、ドイツの裁判所は既に8月、それは認められないとの判決を下している。

 ガスプロムはEUのこの規制のため、結局、パイプライン事業の半分を別の会社に譲らなければならないと言われており、同社にとっては頭の痛い問題だ。パイプライン事業にロシアの大手石油会社、ロスネフチを起用するとの案もあるという。

 なお、2011年稼働のノルトストリーム1の場合は、EU規制の適用除外措置が認められ、ガスプロムが51%を出資する「ノルトストリームAG」が年550億㎥の能力をめいっぱい稼働させている。

 ガスプロムはこうした困難かかえながらも、とにかく早期に認証を得て新パイプラインを動かしたいと考えている。

 こうした事情に着目した一部の関係者から、ガスプロムはノルトストリーム2の早期稼働を狙って、欧州市場でのガス価格の急騰を演出しているのではないかと説が唱えられている。価格を抑えたいのなら、供給を増やす必要があり、そのためには早くノルトストリーム2を稼働させればよいと圧力をかけているというのが、その論理だ。

 しかし、IEA、ドイツ政府、市場関係者の間からロシアが欧州への供給を制限し価格上昇を演出しているとの声は聞こえない。

 ドイツ経済エネルギー省のスポークスマンは22日、ロシアは契約義務を果たしていると述べた。ロシアのガスを買っているドイツの大手電力会社ユニパーも22日、ガスプロムから契約通りガスを受け取っていることを確認した。

 ロシアが政治的思惑から欧州向けのガスの供給を契約に違反して削減していることはないといってよいだろう。そのような行為は欧州のエネルギー安全保障への極めて重大な脅威であり、ノルトストリーム2の認証など論外となる。

 ロシアが契約通り供給を続けている以上、批判は的外れのように思われるのだが、ここで、ロシアには供給余力があるし、ウクライナ経由でのパイプランも使えるのに、そうしていないのはけしからんという批判が登場する。米国務省のホクスタイン顧問の見解がその典型例だ。

 米ウォールストリート・ジャーナルの在ロンドン・コラムニスト、ロシェル・トプレンスキーも、ガスプロムは今年の初めに最大生産能力が年5500億㎥だと言っていたのに今の生産量は5100億㎥程度だと指摘し、その後の様々なやむを得ない事情から確かに生産能力は低下しているものの、欧州の貯蔵不足分くらいは埋められるだろうと書いた(9月22日付け)。

 先のIEAの声明も、到来する冬の暖房期に向けて欧州のガス貯蔵が適正水準に増えるようロシアには「もっとできる」ことがあると指摘した。具体的数字には言及していないが、IEAもロシアに余力があるとみていることをうかがわせる。IEAはそう指摘したうえで、ロシアが欧州へのガス供給国としての信頼を高める好機でもあるとの意見を付け加えた。

 ロシアは確かに契約を守ってガスを欧州に供給しているが、欧州が今窮状にあるのだから単に契約を履行するだけでなく、善意でもっと協力してやったらどうかとIEAは促しているのだ。

 だが一方で、ロシアには実は余力はないとの見方も有力だ。

 オクスフォート・エネルギー研究所のシニア研究員、ヴィタリー・イエルマコフによると、ロシアは最大能力に近い生産を続けており、今年のガス輸出はトルコとドイツ向けを中心に過去最高水準に近いと指摘する。またロシア自身、秋冬に向けて貯蔵を増やさなければならない状況にあるともいう。つまり、ロシアは出し惜しみしていないという見解だ。これにはほかの専門家も同調する。

 ロシアには、IEAの呼びかけに応じるとの気配はない。「こちらの事情も厳しい」ということなのだろう。それに26日のドイツ総選挙の後誕生する新政権がノルトストリーム2への対応を引き継ぐかどうかを見極める必要もあろう。

 欧州のガス価格はノルトストリーム2の認証の問題、そして可能性は低いが、ロシアが契約外で協力するかどうかによって左右されそうだ。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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