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欧州ガス価格 前年比5-6倍に高騰――止まぬロシア責任論

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【ロシアと世界を見る眼】契約以上の供給はロシアの義務か

公開日: 2021/10/18 (ワールド, マーケット)

【ロシアと世界を見る眼】契約以上の供給はロシアの義務か

小田 健 (ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)

 欧州の天然ガス価格(スポット市場の価格)の高騰は、ロシアの国営企業、ガスプロムのせいだとのガスプロム責任論が絶えない。同社が欧州への供給を抑制し、高騰を演出しているのではないかという。だが、冷静に分析すれば、そうした主張にほとんど根拠がないことがわかる。

 当方はロシアの回し者ではない。ウラジーミル・プーチン政権の北方領土問題への対応に始まり、最近の権威主義的傾向の深化など批判されるべき点は多々あると考えるが、この問題で非難される覚えはないとロシアが反発するのは理解できる。

 欧州でのガス価格は1年前に比べ5~6倍と史上最高水準に跳ね上がっている。欧州諸国が苛立つのももっともだ。その欧州が輸入するガスのほぼ半分はロシア産だ。長期契約に基づいて輸入している。

 欧州へのガスの第1の供給国がロシアであるから、ロシアが供給を減らし値上がりを演出しているのではないかと疑惑の目が向くのも仕方がないかもしれない。

 だが、ロシアは本当に欧州への供給を減らしているかどうか、まずは数字を点検する必要があろう。

 ガスプロムの最新のデータ(https://www.gazprom.com/press/news/2021/october/article538911/
)によると、ロシアから旧ソ連諸国以外(欧州諸国、トルコおよび中国)への今年1~9月のガス輸出は前年同期比で約15%増の145.8bcm(1458億㎥)だった。これは史上最高の2018年同期に次ぐ量だという。ロシアがガス輸出全体を減らしているということはない。

 では欧州諸国への輸出はどうか。こちらも前年同期比で増えている。ドイツへの輸出は33%増、以下イタリア14%増、ルーマニア306%増、ポーランド11%増などだ。今年の欧州への輸出は通年で2020年比6bcm増の183bcm以上になる見通し。

 こうしてさすがに最近では単純に供給減を指摘する記事はなくなった。フィナンシャル・タイムズもBBCもニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルも、ロシアは欧州への供給契約を守っていると、とにかく触れるようになった。

 ロシアのエネルギー政策に厳しい態度で臨んでいるカドリ・シムスン欧州委員会委員(エネルギー担当)も「ガスプロムは契約を履行している」と言わざるを得なくなった。

 にもかかわらずロシア責任論は根強い。

 ロシアを批判、あるいはロシアに疑惑の目を向ける人たちが問題視しているのは、ロシアが契約以上にガスを供給していないことだ。ロシアは確かに契約上の義務は果たしているかもしれないが、海外の第1のお得意さんである欧州諸国が困っているのだから、契約を超えてスポット市場に追加供給して窮状を少しでも緩和すべきだというのだ。

 米国のドナルド・トランプ政権で国務次官補(エネルギー問題担当)だったフランシス・ファノンは、ロシアは巨大なガス資源を持っており欧州に供給するのは当然だが、そうしていないと指摘した(ウォールストリート・ジャーナル、10月14日付け)。米国で聞かれる典型的な意見だ。

 国際エネルギー機関(IEA)も、ファノン元国務次官補のような上から目線ではないが、9月21日の声明で同様に欧州への供給を増やすよう呼びかけた。

 ファティ・バイロフIEA事務局長は13日、フィナンシャル・タイムズに対し、IEAの計算ではロシアは欧州に対し供給を15%増やせると述べた。この場合の15%増がいつの時期に比べての数字であるか不明だが、いずれにせよロシアには生産余力があるとの見解だ。

 こうした声に対し、今一つはっきりした言い方ではないが、プーチン大統領も一応、前向きに応える姿勢を見せている。「ガスプロムのお客さんが相応の申請を出す場合、供給増を拒否したことはない」と述べた(10月6日、政府内でのエネルギー問題の協議の場)。その際、サンクトペテルブルグの取引所を活用するとの条件を口にした。

 だが、すぐには対応できない事情もあるようだ。ロシアも冬の需要期を控えてガス貯蔵を積み増し中で、それが終わるまでに10月一杯はかかるという。また、どのガス田のガスをどのパイプラインを使って輸送できるのかという技術的な問題、さらに採算上の問題もあるようだ。

 ロシアが欧州への供給を抑制しているという記事には、必ずと言ってよいほど、それはノルトストリーム2の認証を得るためだという指摘が批判の意味を込めて登場する。ノルトストリーム2はバルト海経由でロシアとドイツを結ぶ大型の新パイプラインで先月、完成、いまはドイツ政府と欧州委員会からの認証を待っている。それが得られなければ稼働させられない。

 確かにロシアは、ノルトストリーム2が稼働すれば、欧州の今の問題は解決するのに、と言っている。アレクサンドル・ノヴァク副首相・前エネルギー相は、6日の政府会議で、欧州市場を鎮めるためには、ノルトストリーム2の早期認証という方法があると述べた。

 だが、それは強く非難されるような発言であろうか。そもそも、このパイプラインはロシアが無理矢理ドイツに押しつけたプロジェクトではない。ドイツも自分の利益になると判断し両国合意の上、進められてきた。

 ノルトストリーム2が完成した以上、ロシアがその早期稼働を望むのは当たり前だ。早期稼働のために欧州の法律を無視するとか、契約に違反して供給を減らすとすれば、ロシアがやり玉にあげられて当然だ。

 しかし、契約義務を超えて供給するかどうかは、ロシアの自由裁量の問題で、それを商売上の駆け引きの材料に使ったとしても、あまり文句は言えないのではないか。商売をやっていれば、あれこれ駆け引きを展開するのは日常茶飯事だろう。

 それでもロシアの強権色を強める国内政治や外交、軍事政策を見て、エネルギーのロシア依存を強めることに慎重にならざるを得ないという事情もあろう。

 その懸念を突き詰めると、「ロシアはエネルギーを強制の道具、政治的兵器として使用した歴史を持つ」(ジェイク・サリバン米大統領国家安全保障担当補佐官、7日、ブリュッセルで)との声に到達する。

 これにロシアは強く反発する。「ロシアは全世界の顧客に確実なガス供給者であったし、いまもそうだ。アジアでも欧州でも常に約束をすべて果たしている」。プーチン大統領が6日の政府会議でこう強調した。

 2人の言っていることは真逆だ。果たしてどちらに分があるか。

 サリバン補佐官は具体的な事例を挙げなかったが、おそらくロシアが1993年、1994年、2006年、2009年と一時的にウクライナのパイプラインへの供給を止めたことを指すのだろう。

 だが、これは多くの専門家が知っているように、基本的にはウクライナがガス代金を支払わず、パイプラインから勝手にガスを盗み取っていたためにロシアが取った行動だ。政治の問題というより、商業取引上の紛争だった。

 ロシアにしてみると、代金を踏み倒し、盗みをやめない相手にどうしてガスを供給しなければならないのかと憤懣やるかたないところだろうが、国際的にはそれは弱い者を政治的にいじめていると映った。

 その後は、話がまとまり、ロシアは2024年までウクライナのパイプラインに年40bcmのガスを送ることで合意し、それを続けているが、ウクライナとの度重なる紛争が欧州とつなぐパイプラインの多角化、ノルトストリーム1、そして2の敷設のきっかけとなった。ウクライナのパイプラインが老朽化しているとの問題も新パイプライン建設を促した。

 仮にロシアが北大西洋条約機構(NATO)の演習を止めさせるためだとか、反体制運動家アレクセイ・ナヴァリヌイへの海外での支援の声を封じ込めるため、はたまた日本の北方領土の返還要求を断念させるなどの目的で、ガスや原油の輸出を止めたとしたら、ロシアはエネルギー供給国としての信用を一気に失うだろう。

 ガスや石油(原油と石油製品)はロシアとっての貴重な外貨獲得源だ。国家歳入のおよそ3分の1を占める。その有力な販路を失えば、ロシア経済は大打撃を受ける。

 ウォールストリート・ジャーナル(14日付け)は欧州ガス価格高騰の問題を報じた際、ロシアがエネルギー分野で世界的に影響力を増していると総括した。そのことに間違いはない。だが、エネルギー供給国としてのロシアには強みばかりがあるわけではない。弱みもある。だからロシアがエネルギーを政治的道具に使うことには慎重にならざるを得ない。

 なお、米政府はロシアのエネルギーへの依存に警鐘を鳴らしているが、米国はロシアから原油と石油製品を輸入し、その量は特に2019年以降増加傾向にある。今年7月には米国の石油輸入の8.7%がロシアからの輸入だった。これについては米国で特に問題になっている様子は見られない。
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小田 健(ジャーナリスト、元日経新聞モスクワ支局長)
1973年東京外国語大学ロシア語科卒。日本経済新聞社入社。モスクワ、ロンドン駐在、論説委員などを務め2011年退社。国際教養大学元客員教授。
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