2020年度(令和2年度)の国の予算はまさに異例づくめである。第1に、新型コロナウイルス問題への対応から3回にわたって補正予算が編成され、一般歳出の追加増加額は合計で76.8兆円にも及んだ。
第2に、新型コロナウイルス問題によって経済は悪化したが、税収は60.8兆円と予想外にも過去最高を記録した。2019年10月の消費税率引き上げによる消費税収増の影響に加え、法人税収も11.2兆円と想定より3.2兆円多くなった。
旅行関連、飲食関連など対人接触型サービス消費は大幅に悪化したが、巣籠消費の増加や輸出急回復の影響から、大企業製造業の業績が好調であったことが背景にある。
そして第3は、2020年度内に使いきれずに2021年度に繰り越された繰越金が、30.8兆円にも達した。これは一般歳出規模全体の2割弱、3回の補正による一般歳出の追加増加額合計の約4割に相当する。これまで繰越額が最も多かったのは、東日本大震災直後の2012年度の7.6兆円だった。
「規模ありき」の3回の補正予算が巨額の繰越金に
巨額の繰越金が発生したのは、3回の補正予算で計上した新型コロナウイルス対策の部分が中心だ。3回目の補正予算が成立したのは今年1月末のことであり、年度内に使いきることはそもそも難しかったという面がある。しかし、それ以前の2回の補正予算に計上された新型コロナウイルス対策費でも、使い残しが目立っている。
繰越金の内訳をみると、コロナ禍で打撃を受けた企業向けの実質無利子・無担保融資制度の6.4兆円が最大だ。また、休業要請に応じた飲食店などへの協力金に充てる地方向けの臨時交付金も3.3兆円が残った。
昨年末に停止したままの観光支援策「GoToトラベル」は2.7兆円の予算の半分程度にあたる1.3兆円が繰り越された。また、公共事業費も人手不足などで執行が進まず、4.6兆円の使い残しが生じている。
巨額の繰越金の発生には、必ずしも必要ではない予算を十分に精査せずに補正予算に計上してしまった、という問題と、必要な予算を計上したが、その執行が大きく遅れてしまった、という問題の2つが主に考えられる。
第1については、補正予算が「規模ありき」の政治決定となったことが、理由の一つだろう。
非常時には不正利用防止よりも迅速な支援を
第2については、新型コロナウイルス問題で打撃を受けた企業や個人への支援が、迅速に執行されていないことが大きな問題だ。
最近は協力金の支給が遅れることが注目されているが、それ以前から持続化給付金制度や雇用調整助成金制度の申請の事務負担が大きいことや審査に時間がかかるために、支給が遅れることなどが大きな問題となっていた。
これは、手続きを行う職員の人手不足の問題に加えて、不正防止に力点が置かれたことで審査にかなりの時間を要してしまったことが原因だろう。平時はそれでも良いが、現在のように非常時には支給のスピードを上げることが重要だ。
不正利用については後に取り締まるとともに、その罰則をより厳しくすることで不正利用の抑止を狙うという対応が妥当なのではないか。
追加経済対策では巨額の繰越金発生の教訓を生かせ
政府・与党は年内の衆院選を視野に入れて、秋にも補正予算編成を行い、巨額の経済対策を打ち出す可能性が高まっている。それは20~30兆円規模とも言われる。
しかしその際には、繰越金が異例の規模となった経験を十分に踏まえることが求められる。決して、再び「規模ありき」の経済対策、補正予算となることがないようにする必要があるだろう。
そもそも、既存のコロナ対策費は繰越金として30兆円あるわけだから、現在の政策の延長線上であれば新たな予算化は必要ない。補正予算を編成するのであれば、あくまでも、必要性、緊急性がかなり高い新規の施策に限るべきだ。
一方で、経済対策を成立させることよりも、必要な支援をいかに迅速に企業や個人に届けるか、という執行に政府は一段と注力する必要があるだろう。緊急事態宣言に関わる協力金については、政府は前渡しも検討するとしているが、それをぜひ迅速に実行して欲しい。
現時点での優先課題は、新型コロナウイルス問題で打撃を受け支援を必要とする企業や個人にピンポイントで、しかもいかに迅速に財政資金を届けるか、である。
この点に照らすと、一律給付金の支給のように、新型コロナウイルス問題で経済的な打撃を受けていない個人も含めて広く支給をするような対策は、望ましくない。それは、いたずらに財政環境を悪化させてしまうという面からも大いに問題だ。
30兆円超の巨額繰越金 必要な支援を素早く |
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【木内前日銀政策委員の経済コラム(100)】まさに異例尽くめの20年度予算
撮影・ニュースソクラ編集部
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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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