19日の臨時閣議で政府は、コロナ対策中心の財政支出55.7兆円と、過去最大規模の経済対策を決定した。新型コロナウイルス問題の発生から2年近くが経過する中、海外ではコロナ関連の財政支出を着実に縮小させ、コロナ後を睨んだ中長期の課題に応えるものへと財政支出の比重を移している。
そうした中で、今回の日本の経済対策はまさに異例だ。
内閣府の試算によると、その景気浮揚効果はGDP換算で5.6%程度だという。昨年4月のコロナ経済対策では4.4%、昨年12月のコロナ経済対策では3.6%、と内閣府は試算していた。それよりもかなり大きな規模となったが、本当だろうか。
ちなみに筆者の試算では、経済対策のGDP押し上げ効果は15.8兆円程度、1年間のGDP押し上げ効果は3.0%程度だ。
押し上げ効果がGDP5.6%程度であれば、その規模はちょうど30兆円となる。他方、今回の経済対策で補正予算の規模は31.9兆円しかないことから、そのほとんどがGDP押し上げ効果に繋がることになってしまうが、これはおかしい。
おそらくこの内閣府の試算には、今年度補正予算の影響だけでなく、16カ月予算として来年度本予算に計上される部分も含まれているのだろう。今回の対策で国費は43.7兆円、21年度補正予算案で31.9兆円であることから、その差の11.8兆円が来年度予算に計上される分と推察される。
しかし、来年度予算に計上される部分は、今回の補正予算がなくても来年度の本予算に計上されるはずのものだった、と考えるべきではないか。従って、経済対策の経済効果として計算する際には、補正予算の規模で計算する方がより適切ではないか。筆者はその前提で試算している。
政府が来年度本予算分も含めた43.7兆円で試算していた場合、GDP押し上げに繫がった30兆円は予算規模の68.7%と7割近い。その乗数効果もまた、信じがたいほどに高い。
個人や企業向けの給付金の乗数(支出額がGDP押し上げに繫がる割合)は25%~40%程度と考えられる。予算の全てが公共投資でない限り、このような高い乗数には到底ならないはずだ。実際には、今回の経済対策は、公共投資でなく個人や企業向けの給付金が相当の規模を占めているのである。
このように考えてみると、内閣府は経済対策の効果を相当膨らませて試算結果を出した印象が強い。ただし今までの経済対策の効果についても同様であり、経済効果を大きく見せる傾向があるのはいつものことだともいえる。
▽経済対策は「財政の崖(フィスカル・クリフ)」を和らげる
ところで、筆者の試算値である3.0%のGDP押し上げ効果も、決して小さくはない。しかし、この経済効果によって来年の日本の成長率が大きく高まると考えるのは正しくないだろう。
今まで実施されてきた巨額の経済対策の効果が薄れる中で、成長率は押し下げられるはずだ。いわゆる「財政の崖(フィスカル・クリフ)」が生じるのである。今回の経済対策は、それが無ければ相応に落ち込むはずだった成長率を支える効果を持つものの、成長率を大きく押し上げる効果を発揮するものではないだろう。
来年の日本経済は、原油価格高騰や中国の不動産不況、半導体不足などの悪影響を受ける海外経済と、感染リスクの低下を受けた国内個人消費の持ち直しのバランスで決まってくるだろう。
岸田経済対策 政府試算のGDP5.6%押し上げは過大 |
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【木内前日銀政策委員の経済コラム(108)】これまでの対策がなくなる「財政の崖」を相殺はするが
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(マーケット)
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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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