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最貧国債務でも、中国が先進国と対立

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【木内前日銀政策委員の経済コラム(74)】G20合意守らず、返済猶予の延長も認めず

公開日: 2020/08/06 (ワールド, マーケット)

深刻化するアフリカの新型コロナ感染=Reuters 深刻化するアフリカの新型コロナ感染=Reuters

 低所得国を中心に、新興国・途上国の対外債務問題が日々深刻さを増している。主要国による支援体制は遅れており、それが、新興国・途上国の国債の価格下落などを通じて、世界の金融市場の潜在的な不安定要因となっている。加えて、新型コロナウイルスの感染拡大抑制の障害ともなっているのである。

 G20(主要20ヶ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議は今年4月に、重い債務負担に苦しむ途上国に対して、2020年末までに支払期限を迎える債務の元本や利子の返済猶予をする方針を決めた。

 アフリカ南部などの低所得国が、この返済猶予の主な対象だ。1人あたり国民総所得が1175ドルを超えないなどの世界銀行の定める低所得(最貧国)基準に照らすと対象国は76カ国あり、その5割をアフリカが占める。特にジンバブエやガーナなど、サハラ以南のサブサハラ諸国が多い。

 世界銀行によると、低所得国の対外債務は約1500億ドル(2018年時点)に達している。その規模は5年間で約4割も増加したという。

 途上国債務問題への債権国の対応で、従来、主要な役割を果たしてきたのがパリクラブだ。1956年にアルゼンチンの対外債務の繰延を話し合うため、債権国である先進諸国がパリに集まったのがその始まりである。債務国の債務返済の負担を軽減させ、返済しやすい条件への変更(リスケ)を議論する組織だ。

 ところが近年は、途上国向け融資で中国の存在感が急速に高まっている。米ジョンズ・ホプキンス大の調べによると、中国はアフリカ諸国(低所得国以外も含む)に対して、2016年に300億ドル超の融資を実施している。

 そこで、今回の低所得国債務問題への対応では、先進国から構成されるパリクラブではなく、中国を含むG20が主導的な役割を果たしているのである。

 返済猶予要請を躊躇する最貧国

 G20が低所得国の対外債務の返済を今年末まで猶予する方針を4月に決めた後も、低所得国を含む世界経済の情勢は一段と悪化した。さらに、新型コロナウイルスの感染は、低所得国を含む新興国・途上国へと拡大を続けている。こうした下で、猶予期間の延長などさらに踏み込んだ低所得国債務問題への対応が必要な状況となってきている。

 そこで、7月18日に開かれたG20財務相・中央銀行総裁会議では、低所得国の対外債務の返済のさらなる延長が議論された。声明文には、以下のような文言(抜粋)が盛り込まれていた。

 「2020 年 7 月 18 日現在、42 か国が債務返済猶予を要請しており、猶予される2020年中の債務返済額は53億ドルと推定される。2020 年下半期に、債務返済猶予の延長の可能性を検討する」

 債務返済猶予の期間延長の決定で合意はなされず、それを検討するとの表現にとどまった背景には、中国が深く関わっていると見られる。中国は、低所得国の対外債務の返済を今年末まで猶予するという4月のG20で決まった方針を十分に遵守していない、と批判されている。また、中国には、特定国を優遇するような不透明な債務返済条件の見直しなどを実施している、との批判もある。

 中国の融資先には、中国の国家戦略である「一帯一路構想」の参加国向けが多い。こうした国々への影響力を高める狙いから、債務返済条件の見直しなどでは、G20の基準に沿った対応をすることへの抵抗が、中国側にはあると考えられる。

   中国と米国を中心とする先進国との対立が、低所得国の対外債務問題へのG20の対応にまで影を落としているのである。

 また、低所得国側の対応の鈍さが、問題解決の障害となっている点も見逃すことはできない。世界銀行の推計によると、債務返済猶予の対象となる73カ国の全てが猶予措置を受ける場合には、合計で115億ドル(約1兆2,000億円)の返済が、年明け以降に繰り延べられることになる。

 しかしG20の声明文で示されたように、現時点での適用の申請は未だ42カ国にとどまっている。申請していない国々には、ガーナやハイチ、ケニアなど過剰債務の「高リスク」国が含まれる。

  こうした国々は、返済猶予措置の適用を受けることによって国の評価が下がる、いわゆるスティグマ(汚名)を警戒しているのである。またそれが、将来的に新たな公的、民間債務をより困難にするとの懸念もあるのだろう。

   低所得国が債務返済猶予の申請を実施しやすくなるような環境整備も、今後はG20の大きな課題となってくるだろう。

 このように、低所得国の債務問題の解決には、様々な障害が立ちはだかっており、現状では対応が十分に進んでいない。しかし、そうしている間にも、低所得国の経済情勢、財政環境は悪化の一途を辿っているのである。

   今後、低所得国のデフォルト(債務不履行)が頻発する事態となれば、世界の金融市場の混乱の要因となり、世界経済の新たな重しともなるだろう。

木内 登英 (前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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