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米緩和策が招くインフレ懸念 問われるFRBの手腕

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【木内前日銀政策委員の経済コラム(89)】パウエル議長の再任を左右

公開日: 2021/03/04 (マーケット)

パウエル氏=Reuters パウエル氏=Reuters

 足もとの米国市場では、長期金利の急上昇が株価の大幅下落を誘発する動きとなっている。この長期金利の上昇は、今までは経済回復を映した「良い金利の上昇」との見方が有力であったが、株価の調整を促すなど、次第に「悪い金利の上昇」の側面が見えるようになってきた。

 2月23日(米国時間)の議会公聴会で、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、足もとでの長期金利上昇は経済改善に対する市場の期待の表れであると評価し、また、物価上昇が長引くとは思えない、と市場のインフレ懸念を牽制した。そのうえで、金融緩和の継続を強調している。

 物価連動債などに表れる市場の物価上昇率予想は足もとで急速に上昇している。コロナショックを受けた生産縮小の行き過ぎにより、自動車搭載用の半導体の不足は世界で深刻となっている。また、天候要因にも影響されて、一時急落した原油価格なども戻している。

 しかしこれらは、コロナショックによって一時的に生じた混乱の一部、と総括できるのではないか。コロナショックを受けて、それ以前よりも経済がより強くなった、あるいは物価上昇率のトレンドが高まったということは、考えられない。物価上昇率に大きく影響する米国の需給ギャップが、コロナショック前の水準を取り戻すのは、今年中はまだ難しいだろう。

 FRBは昨年春に物価目標政策の枠組みを修正し、物価上昇率がしばらく2%の目標水準を下回った場合には、目標水準を上回る物価上昇率を容認し、物価上昇率の平均が中期的に2%程度になることを目指す、とした。物価上昇率が目標値を上回る、いわばオーバーシュートを容認するこの新たな政策方針が、足もとでの市場の物価上昇率見通しの上昇、イールドカーブのスティープ化、長期金利上昇の一因となった可能性が考えられる。

 コロナショックを脱して米国経済が順調に回復し、物価上昇率も高まっていく中、FRBが政策を修正せずに金融緩和を維持し続けると、長い目で見て物価上昇率はかなり上振れ、いわば物価上昇率がコントロールできなくなるということを、市場は懸念し始めている。それがイールドカーブのスティープ化、長期金利上昇をもたらしている面があるのではないか。

 1年かけてFRB内で議論し、鳴り物入りで始めた新たな物価目標政策の枠組みを定着させるには、そのような市場の観測を黙認し、政策姿勢を維持し続けることが必要だ。ところがその場合には、長期金利がさらに上昇し、株価の急落など、金融市場の混乱を招く可能性が出てくるだろう。また、長期金利の上昇は経済の回復に水を差し、目標水準を超える前に物価上昇率が頭打ちから低下に転じてしまう可能性も出てくるだろう。

民主党内には共和党・パウエル氏再任反対の意見も

 このように始まったばかりのFRBの新たな政策の枠組みはジレンマに直面し、早くも大きな試練に見舞われ始めている。物価上昇率の上振れを容認することで市場のインフレ期待を高めることを狙う、いわゆるビハインド・ザ・カーブの政策手法には、そもそもこのようなリスクが内在しているのである。

 パウエル議長は来年2月末、つまりあと1年で任期を迎える。パウエル議長の政策手腕については概して評価は高く、再任されるとの見通しの方が現状では多いと思われる。

 しかし、民主党内の急進左派の中では、パウエル議長を再任させるべきではない、との意見も出てきている。彼らが重視する、格差縮小に資する金融政策が十分になされていない、との理由だ。

 民主党員のイエレン前議長(現財務長官)は、トランプ前大統領に再任されずに、共和党員のパウエル氏と交代となった。その意趣返しをするかのように、民主党・急進左派は、共和党員のパウエル議長の交代を主張する。パウエル議長が来年再任されない場合には、リベラル色が強い民主党員で女性のベルナード理事が後任の有力候補となろう。その場合、FRB議長と財務長官が共に女性という異例の布陣となる。

 米国経済がコロナショックから早期に立ち直るように適切に金融政策を運営できるかどうかが、パウエル議長の評価に大きく影響し、それが再任も左右するだろう。しかしそればかりでなく、インフレ懸念とFRBの政策の双方を睨みながら不安定な動きを続ける債券市場を上手くコントロールし、金融市場の大きな混乱を回避できるかどうかも、パウエル議長再任の向けた重要な評価ポイントとなるはずだ。

木内 登英 (前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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