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ヘッジファンドが規制緩いファミリーオフィスに衣替え

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【木内前日銀政策委員の経済コラム(92)】ファミリーオフィス規制進むが、イタチごっこに

公開日: 2021/04/15 (マーケット)

アルケゴス本社が入っていると思われる建物=Reuters アルケゴス本社が入っていると思われる建物=Reuters

木内 登英 (前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)

 金融システムの安定維持のために講じられる金融規制は、イタチごっこのような状況を生みやすい。リスクの軽減を狙って金融当局がある分野の金融機関への規制を強化すると、リスクの高い投資を行なう投資家、リスクマネーは規制を逃れてそれ以外の分野の金融機関へと移り、リスクはそこへ移転されていく。

 リーマンショック(グローバル金融危機)は、欧米の銀行の経営を大きく揺るがした。そこで、規制当局は将来の銀行危機を回避するために、銀行のソルベンシーリスクの低下、流動性リスクの低下を進めるために、自己資本規制や流動性規制を強化していったのである。

 この国際銀行規制の強化を受けて、大手銀行はリスクの高い金融資産の保有を減らすと共に、バランスシートの抑制のためにマーケットメイク機能を低下させていった。

 大手銀行に代わって、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の保有を拡大したのが、非銀行金融機関であるシャドーバンキング(ノンバンク)である。そこには、ヘッジファンド、ミューチュアルファンド、ETF、プライベート・エクイティ、保険会社などが含まれる。

 銀行規制強化を進める中で、当局もリスクが銀行からシャドーバンキングへと移っている、いわゆる規制アービトラージが生じていることは認識していた。しかし、シャドーバンキングに対する規制強化を本格化させる前に、国際銀行規制(バーゼルⅢ)を完結させることを優先したのである。

 コロナショックを受けて、昨年春には金融市場は動揺し、ハイイールド債、証券化商品など高リスク資産の価格も一時は大きく下落した。この際に、市場の大きな調整をもたらしたのは、シャドーバンキングによる資産売却だったのではないか、との見方が広がり、シャドーバンキング規制の機運が改めて高まったのである。

規制逃れでヘッジファンドからファミリーオフィスへ

 シャドーバンキング規制はまだ大きく進んでいないが、部分的には進んできた面もある。例えば、欧米ではリーマンショック後に、投資家保護のためヘッジファンドの規制が強化された。米国では金融規制改革法(ドッド・フランク法)でSEC(米証券取引委員会)への登録が義務付けられた。

 SECに登録したヘッジファンドは運用記録を保存する義務があり、定期的に報告することも求められる。一方で、顧客に対する説明責任を負うこともあり、無制限にリスクはとれない。

 そこで、規制や様々な制約を逃れるため、ヘッジファンドから組織形態を変える動きが出てきたのである。その代表的な例が、先般のアルケゴス・キャピタル・マネジメントの巨額損失問題で一気に注目を集めた、「ファミリーオフィス」である。

 ファミリーオフィスとは、資産家一族の資産運用を目的に設立された組織のことだ。自己資産運用会社という名目のため、当局への運用情報開示義務から除外されている。

 顧客から資産運用を任されることがないため、顧客保護のための規制も免れており、また、顧客本位の業務運営が求められる「フィデューシャリー・デューティー(信任義務)」もない。それがゆえに、極めてリスクの高い投資行動も可能となっているのである。

 ファミリーオフィスは、かつては個人や一族で築き上げた富を大きく増やすのではなく維持することを目的とし、保守的で長期投資の傾向が強かった。それが現在では、少なくとも一部は極めてリスクの高い投資を行なう組織へと変貌している。

 そのきっかけとなったのは、ヘッジファンドから規制逃れを狙って、ファミリーオフィスに鞍替えする動きが近年強まったためだ。ジョージ・ソロス、ジョン・ポールソン、ジョン・アーノルドら富豪の大物投資家はいずれもヘッジファンドを閉鎖し、ファミリーオフィスを創設したのである。

ファミリーオフィスの資産は7兆ドル規模との試算も

 ファミリーオフィスの大半は未上場で、業務内容や投資に関して詳細を開示していない。そのため、ファミリーオフィスがどの程度の金融面でのリスクを抱えているのかは、誰も分からない状況だ。

 UBS証券が昨年公表した報告書によると、規模の大きい「シングル・ファミリーオフィス(単一家族のみにサービス提供)」上位121社だけで、純資産は推定1,424億ドル(約15兆6,000億円程度)に上る。ファミリーオフィスの歴史は、中世の王侯貴族の財産管理にさかのぼるとされるが、この報告書の上位121社のファミリーオフィスのうち69%は、2000年以降の比較的近年に設立されたものだという。

 さらに、市場調査会社のカムデン・ウェルスによると、2019年時点で世界のファミリーオフィスが運用する資産は総額6兆9,000億ドルに達しており、それまでの2年間で38%増加したという。

 米金融安定監督評議会(FSOC)の2020年年次報告によると、米ヘッジファンドの運用資産は2兆9,000億ドル、レバレッジ取引を勘案すれば実際には6兆3,000億ドルと見積もられている。ファミリーオフィスの資産規模は、既に米ヘッジファンドの運用資産を上回っている可能性がある。

 このように、ファミリーオフィスの実態はよく分からないが、その資産規模はかなり膨れ上がっており、それが、金融面での大きなリスクになっている可能性がある。

適切なマクロ金融政策も金融システムの安定維持に重要

 シングル・ファミリーオフィスに関する情報開示が極めて限られていることは、金融市場、金融システムの安定の観点からは大きな脅威である。今後は、情報開示の面を中心に、急速にシングル・ファミリーオフィスに関する規制強化が、バイデン政権の下で進んでいく可能性が出てきた。

 ただし、ファミリーオフィスへの規制強化を進めれば、高いリスクの投資行動を好む投資家やリスクマネーは、規制を逃れて別の形態の組織に移っていく、いわゆる規制アービトラージが必ず生じるだろう。そのため、規制強化は根本的な問題解決とはならない可能性がある。

 金融システムの安定を維持するには、規制強化のみに頼るのではなく、過剰なリスクをとった投資行動が生まれないような金融環境を作り出す、適切なマクロ金融政策運営も非常に重要である。ただし、FRB(米連邦準備制度理事会)が現在、金融システムの安定に十分配慮した金融政策運営を行っているかについては、疑問が残るところだ。
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木内 登英(前日銀政策委員、野村総研エグゼクティブ・エコノミスト)
1987年野村総研入社、ドイツ、米国勤務を経て、野村證券経済調査部長兼チーフエコノミスト。2012年日銀政策委員会審議委員。2017年7月現職。
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