塩崎恭久厚生労働相の肝いりで発足する社会保障審議会年金部会の 「作業班」が週内にも設置され、初会合を開く。 安倍晋三内閣が成長戦略に盛り込んだGPIF( 年金積立金管理運用独立行政法人)の「ガバナンス強化」 を実行に移す法案作成作業などを担う。年内に4~ 5回の会合を経て、具体的な組織のあり方を決める。
この作業部会は改革派の塩崎厚労相が早期の設置を現場に指示して いた。これに対して、 組織が見直されて独立行政法人ではなくなれば、 厚労省の権限や裁量範囲が小さくなることから、 香取照幸年金局長ら厚労省の現場が抵抗してきた。 政権の方針に従って改革したい大臣と、 役所の権益を守りたい役所が対立する構図である。
ようやく設置にこぎた作業班のメンバーは、 年金部会の部会長代理を務める植田和男・東大教授を議長役とし、 伊藤隆敏・東京大学名誉教授や、菅野雅明・ JPモルガン証券チーフエコノミスト、岩間陽一郎・ 投資顧問業協会会長らが加わる見込み。 伊藤教授は昨年11月にGPIF改革を提言した「公的・ 準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識者会議」 の座長で、GPIF改革を主導している。当初は、 こうした改革派5人に労使双方の代表を加えた7人で作業班を構成 する案が模索されたが、 年金局はこれに年金部会の委員も務める藤沢久美ソフィアバンク代 表ら3人を加えるよう求め、 結局10人でスタートすることになった。
仮に改革派が5人で、労使代表が厚労省寄りとすると、 そこに厚労省寄りの人物を3人加えれば、賛否同数。 改革派が議長役となれば、 メンバーの過半を厚労省派で固められるという戦略である。 審議会を役所にとって都合が良い人物で固めるのは官僚の常套手段 だが、 今回も具体的な検討を始める前から水面下でのバトルが続いたわけ だ。
伊藤氏が座長としてまとめた「有識者会議」の報告書では、 業務に関する権限・ 責任が理事長一人に集中している独立行政法人の仕組みを批判、「 資金運用の重要な方針等については、 利益相反にも配慮した常勤の専門家が中心的な役割を果たす合議制 により実質的な決定を行う体制が望ましい」とした。 日本銀行の政策委員会のような独立性を年金運用の方針決定にも導 入しようという考えだ。
GPIFは127兆円にのぼる年金資産を運用しているが、 従来は日本国債で大半を運用してきた。 これを株式などを含め多様化することで年金資産を着実に増やして いこうというのが安倍内閣の方針。 そのためには専門家が独立して運用方針を決めるガバナンス体制が 不可欠だとしている。
政権の意向に抵抗する年金局は今後、 GPIFへの厚労省の権限維持に向けて、 改革への抵抗を続けるとみられる。作業班のメンバーへの「 ご説明」を繰り返し役所寄りの結論に着地させる戦略だ。