アルゼンチン政府と民間債権者は8月4日、総額650億ドルの債務につき債務再編案に合意した。
両者の債務交渉は、コロナウィルスの感染拡大も手伝って約4か月にわたる難交渉の末、何とか最終期限に間に合う形となった。
これにより1816年の独立以来9回目となるデフォルトを回避することができた。しかし、今後は同国にとって最大の債権者であるIMFとの債務交渉を控えているだけに、楽観は禁物といえよう。
政府・民間債権者との交渉経緯を振り返ってみると、本年4月16日にアルゼンチン政府のグスマン経済相が債務再編案を発表した。内容的には対象債権を新たに発行する10種類の国債との交換を通じて三年間の支払い猶予、元本・金利の削減を実現する、というものであった。
しかし、ブラックロック、フィデルティなどの債権者は政府案では債務削減幅が大きすぎることに不満を示して、5月4日に政府案を拒否する共同声明を発表した。
その後も交渉は難航を極め、5月22日には再編対象債務(650億ドル)に含まれる一部の利払い(5億ドル)を政府が支払いを拒否する事態となった。しかし、その後も交渉は継続して、7月5日にアルゼンチン政府が債務再編の最終案を発表して、申込期限を8月4日とした。
その8月4日に成立した妥協案は平均回収価値を額面1ドルにつき55セントと民間側の要求した56.5セントを下回ったものの、政府の4月当初案(40セント)を大きく上回っている。
4月当初案との主な違いは、
①支払い猶予期間の短縮(3年→1年)、元本削減率の縮小
②交換する新債券の国債(ドル建て451億ドル、ユーロ建て175億ドル、スイスフラン建て4億ドル)を10種類から12種類にする
③最長の25年物ドル建て債の金利を4.75%から5.0%、同ユーロ建て債で3.5%から4.125%に引き上げる、
といったもの。
全体的にみれば、今後も資金繰りの厳しいアルゼンチン政府側が債権者に相当程度譲歩した、というのが市場の見方である。IMFのギオルギエバ専務理事は「フェルナンデス大統領、グスマン経済相、債権者に救いを表する。合意は非常に重要な一歩」と歓迎のメッセージを出した。今後は、8月28日までに上記債務再編の申し込みを受け付けて、9月4日に債券交換を実施する予定である。
アルゼンチンの経済情勢は、新型コロナウィルス感染拡大前から厳しく、実質成長率は2018年(-2.6%)、2019年(-2.1%)と二年連続でマイナス成長となった。その後、2020年3月に国内初の感染者が確認された後、新型コロナウィルスが急速に拡大して8月24日現在で累計の感染者32.9万人、同死者数6,795人を記録している。
2020年第1四半期の成長率は前年比-5.4%、2020年通年でもロックダウンの影響等から-9.9%(IMF推計)と3年連続のマイナス成長となる見通しだ。
アルゼンチンは世界の中でも際立ってインフレ率が高く、消費者物価上昇率は2019年5月には57.3%と現統計開始以来の最高を記録して、1年後の今年5月でも43.4%に達しており、全世帯の半数を占めるという貧困層の生活苦は一段と増している。
こうした中で、フェルナンデス政権は民間債権者との合意を早く達成して、最大の債権者であるIMFからの融資により資金繰りの危機を脱出したいというのが本音である。
マクリ前政権時代にスタンドバイ取極めによってIMFから440億ドルの借り入れを実行した。この元利返済額だけで2021年が50億ドル、2022年が189億ドル、2023年には191億ドルと返済負担が増大する。IMFは、これまでも債務の減免や返済遅延を認めておらず、巨額の返済負担を負わざるを得ない。この資金繰りを付けるためにも実質的な借り換えとなるIMFとの新取極めが不可欠である。
ただ、IMFからの融資にあたっては、四半期ごとに中期的な経済の見通し、財政金融政策(とくに財政赤字については厳しいターゲットを課されるため、歳出削減や増税などの不人気政策が必要となる)、中期的な観点からの構造改革(硬直的な労働市場の改革、思い切った規制緩和ほか)を求められる。
一方で同国では依然として新型コロナウィルスの感染が広がり続け、国民の不満も拡大してフェルナンデス政権の支持率低下に歯止めがかからない。IMFとの交渉は民間債権者以上に難航と長期化が予想される。