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FRBが緩和見直しに踏み切れないトラウマ

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【経済着眼】「市場の癇癪」への恐怖が足をひっぱる

公開日: 2021/02/19 (ワールド, マーケット)

パウエル氏=Reuters パウエル氏=Reuters

俵 一郎:経済着眼 (国際金融専門家)

 昨年、FRBが緊急利下げでゼロ金利と量的緩和の復活に踏み切ったとき、米国経済はコロナ感染の拡大で暗澹たる有様で、パウエル議長のハト派的な政策スタンスは今後何年も続けざるをえないように思われた。しかし、このところ、市場では落ち着いていたインフレが再燃しかねないとの懸念も広がっている。

 FRBがいつ、どのように金融超緩和の巻き戻しに向かうのか、との関心も高まってきた。ただFRBのパウエル議長は過去のトラウマもあって緩和解除には引き続き慎重な姿勢を崩していない。

 トランプ政権により昨年12月に決定された9千億ドルの経済政策に続いて、バイデン大統領が1兆9千億ドル(210兆円)という未曽有の規模の財政刺激策を発表した。個人に対する給付金も12月時の600ドルに加えてバイデン政権は追加的に1,400ドルの支給を決めた。

 1兆9千億ドルはGDP比9%に当たり、かつ2008年のグローバル金融危機時の2倍以上の規模に相当する。12月のトランプ大統領時代の9千億ドルと合わせるとGDP比14%に膨らむ。ちなみに米国のGDPギャップは4%程度とみられる。もちろん、財政支出は単年度でなく数年度にわたって続くものも多いので単純な比較はできないとはいえ、そこまで必要なのかとも思われる。

 ちなみにラリー・サマーズ元財務長官、IMFのオリバー・ブランチャード前チーフエコノミストらは「バイデン大統領による大型財政支出は、景気過熱とインフレ再燃を生みかねない」と懸念を表明している。大胆な財政刺激策を通じて、国民の懐に大量のマネーが流れ込んでいる。とくに年収6万ドル以下の所得層では給付金、失業手当の増額などから今年に入って消費支出が20%も増えているといったレポートもある。

 サマーズ氏らはすでに改善基調にある雇用情勢と潜在的な消費資金の存在が相まってインフレ圧力が高まる懸念を表明している。突如としてインフレ率が高騰する事態になりかねず、FRBが機動的にインフレ抑圧に向かえないリスクも指摘している。

 FRBはむしろ政府に対して財政支出の拡大を迫ってきた。たしかに足元の情勢はFRBの主張を裏付ける。FRBが最重視する物価指数である個人消費支出デフレーターは12月が前年比1.5%、1月も同1.4%とインフレ目標の2%に遠く及ばない。

 雇用情勢をみても1月の非農業部門雇用者数は4.9万人の増加に過ぎず、パンデミックが起こる前と比べると、いまだ1,000万人が職を得ていない。失業率は6.3%に低下したが、FRBではこれは職探しに失望した層が求職を諦めて労働市場から完全に離れてしまったためだとみている。

 しかし、多くのエコノミストは物価、雇用の目に見えた改善は直ぐそこまで来ていると見ている。ワクチン接種が増えて家計のファイナンスが所得補償や貯蓄率の上昇から安定化する、企業設備投資や住宅建設も増大する、などの明るい要因から2021年中のGDPがFRBの前年比+4.2%に対して同6%にまで達する、との民間見通しもある。

 今年の夏には上記要因が重なってミニブームの到来もあり得る、と強気の声が聞かれるとともに景気過熱を心配する声も強まっている。

 市場関係者もこの議論に賛意を示しているようだ。10年もの国債の利回りは昨年2月27日以来となる1.3%台に乗せた。30年物国債もやはり1年ぶりに2%の大台に乗せた。10年物の物価連動国債の利回りは2014年以来の高水準にある。

 1月初めにジョージア州の上院決選投票で民主党が全面的勝利を収めて以来、インフレ予想値はじわじわと上昇しており、BEI(ブレーク・イーブン・インフレ率、普通国債金利から物価連動国債金利を差し引いたっもの)は2.24%に達している。多くの市場関係者が「金利水準がより低く、より長く」と期待していた時代は終わった方に賭け始めているとも言えよう。

 パウエル議長は先日、ニューヨークの経済倶楽部でのスピーチでバイデン大統領が1.9兆ドルの財政刺激策を発表してFRBが超緩和を見直すのではないか、との憶測を真っ向から否定した。パウエル議長は完全雇用を達成して2%のインフレ目標をしばらく続けるようになるまで「FRBは忍耐強く金融緩和を続ける」と言明した。

 そもそも、パウエル議長は、新型コロナが発生してからハト派的な傾向が日に日に強まっている。米国が世界最大のパンデミック被害を受ける中で一貫して景気弱気論を続け、雇用、収益の面におけるダウンサイドリスクを強調してきた。このため早期かつ大型の財政刺激策が必要であることを再三要請してきた。
 
 FRBはグローバル金融危機後の10年余り、早計な引き締めに転じるきらいがあると批判されてきた。当時のバーナンキFRB議長が2013年に「今後、数回のFOMCで資産購入ベースを落としていく」との発言が、量的緩和の終了と政策金利の早急な引き上げを想起させて大混乱を起こした。

 いわゆる市場の癇癪(taper tantrum、テーパリング)と呼ばれた現象だ。パウエル議長自身、「テーパリングはFRBに当時在籍したスタッフに大きな傷跡を残した」と正直に告白している。

 その反動もあって、FRBはいまや、2022年まで現行政策を変更しないと約束している。しかし、インフレリスクなどが生じればその信頼性が傷つくことになる。中央銀行というのは本来的にはインフレ期待の変化などに素早く対応して必要な引き締め措置を行うのに最適な機関であるはずだ。

 長期コミットメントは期待の安定化を狙ったフォワードガイダンス政策であることはわかる。しかし、安易に不確実性の高い経済情勢の中で自分の手足を縛ってしまって良いのであろうか。

 長期的に金融超緩和をコミットする姿勢の副作用はすでに出ている。投資家は将来の確実性を欲するため、FRBが長期間、金融超緩和を持続するというコミットメントほど力強い支援材料はない。ビットコインは急騰を続けて初めて5万ドルを突破した。

 さらに高収益の特別目的買収会社(SPAC、株式市場から資金調達を行い、未公開会社の買収を行うペーパーカンパニー)などのビークルに投資が集中している。FRBに限らず、中央銀行のハト派はこのような市場の熱狂は、実態経済を改善して雇用・所得の拡大を達成するための必然的な副作用と言い張る。しかし、貧富の格差拡大につながるという観点からは好ましくない。

 現在のFRBの政策にとって苦い皮肉は、パウエル議長が職を失って苦しむ貧困層を救うために金融超緩和を続けているとしても、実際には富裕層によって保有されている資産の価値を大幅に引き上げることにつながっていることだ。

 もう一つの皮肉は、テーパリングを恐れて金融超緩和を長期に亘って続けていくとの言動や方針はそれ自体、将来において、より大きなテーパリングを引き起こしかねないということだ。サマーズ氏らがバイデン政権の大型財政と金融超緩和が続いた場合のインフレリスクの高まりを懸念するのもこの点にある。
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