トルコのエルドアン大統領は、3月20日、中銀総裁を解任して利下げを擁護する学者と交代させた。解任されたアーバル総裁は元財務相を務めた政策通であった。
2日前に政策金利を19%に引き上げたばかりであった。引き上げ幅は市場事前予想の2倍に当たる2%となり、断固としたインフレ抑制、通貨防衛にあたる同総裁はマーケットの賞賛を浴びたばかりであった。逆に、その利上げぶりがエルドアン大統領の逆鱗に触れたわけである。
アーバル総裁は11月7日に任命されて以来、わずか5カ月弱で政策金利を累計8.75%引き上げてきた。エルドアン大統領は長年、「低金利で貸し出しを伸ばして成長を促進したい」としたうえ、「利上げがインフレや投機を招く」という独特の経済哲学に基づき利上げを牽制してきた。
しかし、政策通のアーバル氏の総裁就任後、トルコ中銀が正常な金融政策の戻った、と好感されてトルコリラも上昇傾向にあった。しかし、アーバル総裁解任を受けたアジア市場の早朝取引ではトルコリラは19日(金)の1ドル=7.22リラから同8.4リラと一気に15%の下落とアーバル総裁就任以来の上昇幅をほとんど帳消しにした。
エルドアン大統領は、二桁のインフレ(2月前年比+15.6%)とトルコリラの下落を前に3年間続けてきた利上げ抑制を諦め、アーバル氏を信頼して持論を封殺したものとみられていた。
エルドアン大統領は後任総裁として与党の公正発展党(AKP)で国会議員も務めたエコノミストのカブチオル氏を充てた。同氏はイスラム系新聞で「利上げは、直接的にではないにせよ、インフレ率の上昇を導くもの」とエルドアン大統領と歩調を合わせる主張をしている。
この総裁人事でトルコ中銀の独立性は今後、完全に阻害されるであろう。アーバル総裁就任以来、トルコリラは18%上昇した。今後、利下げが実施されてトルコリラが再び売り圧力にさらされて2018年のトルコリラ危機が再現されそうである。
このところ、米国の長期金利上昇で新興国から資金流出が続いている、という情勢の中でトルコが狙い撃ちされる可能性は高いであろう。
またインフレ率については、中銀のインフレ目標(21年末+9.4%)は有名無実して、二ケタ台のインフレの是正は遠のくであろう。
トルコ経済の構造的な問題である経常収支の赤字と外貨準備の払底がアーバル総裁によって是正される、との投資家の希望は打ち砕かれることになろう。
エルドアン大統領の娘婿であるアルバイラク財務相が昨年11月に辞任して、経済運営に対する内外からの批判、リラの暴落、リラ買いドル売り介入の頻発に伴う外貨準備の払底、などが正常化すると期待されていた。しかし、19年以来3人の総裁が次々と任命されたものの、誰一人4年の任期を全うすることなく、4人目の総裁就任となった。
トルコの実質GDPは20年中わずか1.8%の伸びにとどまった。インフレの高進に伴う実質所得の低下やコロナウィルスの蔓延に伴う夜間外出禁止、観光客の入込み激減などに見舞われたためだ。経常収支も20年中、輸出や観光収入の落ち込みから367億ドルの大幅赤字を計上した。この難しい時期にエルドアン政権はインフレ高進、通貨下落、対外債務問題にどういう対処をしていくのであろうか。