ドルの対円での下値余地が大きいとの見方が根強いようだ。
2014年第4四半期以降のドル円チャートは、真ん中に大きな3つの山ができるヘッド・アンド・ショルダー(H&S)を形成。一般的なテクニカル分析によれば、ドル円は2月9日にH&Sのネックラインとされる115円ちょうど近辺をしっかりと割り込んだため、次の下値の目途は、H&Sの高値(125円ちょうど近辺)とネックライン(115円ちょうど近辺)の値幅(10円)と同程度、ネックラインから下げた105円ちょうど近辺(=115-10)となる。
米国景気の先行き懸念も根強く、ドル買いの動きを抑えている。昨日(2月24日)に発表された1月の米国マークイット・サービス業PMIは49.8と3カ月連続で低下し、2013年10月以来となる50割れ。米国景気のけん引役であるサービス業の業況が急速に悪化すれば、米景気全体の先行き懸念が強まるのも無理はない。
しかし他の米経済指標を見ると、米国の景気やインフレが大きく悪化しているとは言い難い。アトランタ連銀が独自に公表する経済予測モデル「GDPナウ」では、第1四半期成長率予想が2月17日時点で2.6%増と、2月1日時点の1.2%増から大きく上方修正された。
雇用増が続けば賃金増を通じインフレも強まる、というFRBイエレン議長の指摘も現実味を帯びてきた。1月の米消費者物価(CPI)は食品とエネルギーを除いたコアベースで前年比+2.2%と12年6月以来の高い伸びを記録。1月の米平均時給は前月比0.5%増と市場予想(同0.3%増)を上回り、賃金の増加ペースは加速。
その後発表された米新規失業保険申請件数(4週平均)は27万件台と低水準を維持するなか、原油先物価格は減産合意期待もあって一進一退の動き。米国のインフレが急速に鈍化するとは考えにくい。
セントルイス連銀のブラード総裁は、日本時間の本日(2月25日)朝、インフレ期待の低下を指摘しながらも、今後は原油価格が安定すればインフレ期待は上向くとの見方を表明。米労働市場は非常に良好のようで、さらに改善されており、米国の成長率は昨年より力強さを増すとの見解も示している。
中国を主因に世界経済全体の減速感が強まり、いわゆるリスクオフの円買いを指摘する声も多い。しかし世界景気との連動性が高いと言われるバルチック海運指数は、2月10日の290を底に10営業日連続で上昇。水準は322と年初(1月4日)の473にはほど遠い水準だが、世界景気の減速に歯止めがかかりつつあるのも事実だ。リスクオフの円買い、というストーリーの説得力が弱まっているようにも思える。
短期的な見方でテクニカル分析を用いると、ドル円は下げ止まりから上昇も期待できつつある。ドル円の下値は、2月11日と昨日(24日)で、ともに111円ちょうど近辺。このままドル円が大きく111円を下回らなければ、いわゆるダブルボトムを形成することになる。この場合、ドル円は2月16日の高値である114円台後半くらいまで上昇すると期待できる。
もちろん今週末のG20を控え、円買いポジションの調整が進んだだけとの見方を否定することは難しい。これから発表される米経済指標が市場予想を上回る悪化となったり、バルチック海運指数が再び低下に転ずる可能性もあるだろう。しかし一部市場関係者の声高な指摘とは裏腹に、ドル円は徐々にではあるが下値を固めているように見える。
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(マーケット)
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村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。 著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。 |
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