21日まで3日間、香港・上海に出張した。足元で起こっている中国発の市場混乱は、1990 年代に起こったメキシコ危機やアジア危機の発端とほとんど同じ構図であるといえよう。
つまり、長らくのドル安、米金利安を享受すべく、通貨 の変動がほとんどないことを前提とした投資が中国を中心とした金融市場で起こっていた こと(いわゆるドルのキャリートレード)。こうしたドルからの投資が中国から還流、流出したことが株安、元安の一因だ。
ただ、こうしたポジションは、既に米金利利上 げ準備や中国国内の金融緩和により国内調達環境の改善が見られ、昨年来徐々に 縮小されつつあった(と考えられる)。しかしながら、今回の市場の動揺を見る限り、相応の残高があったと考えられる。
また、このタイミングで一気に動きが加速した事については、中国元の国際化の一環 として、中国政府が重要視するSDR採用に向け、人民元の市場の需給にあわせた変動の許容という方向性が確認されたことが大きそうだ。
仮に、市場に中国元 の動きを任せた値決めとするのであれば、前段の通り金融政策の方向性の違いから、 中国元安傾向は現状では自然の流れとなろう。となると先々の元安期待から取引解 消するのであれば、将来よりも今の方がより優位だとの投資家の判断が働いた可能性があるのではないか。
こうして元高ないしは、通貨推移が横ばいを前提とした裁定 取引を解消する動きが一気に起こった可能性があると考えている。この裁定取引は 通貨だけに関わらず、商品を担保にした取引も含めかなり広範囲であった可能性が 高い。
重要なのは、それが経常収支の黒字国、純債権国で起こって居るという事だ。 このため、中国人民銀行が市場に流動性を供給している事から、通貨当局が 元買いドル売り介入をしていると想像させる。こうした動きで中国の財政や外貨準備高の水準を心配する市場参加者はあまりいないのではないか。むしろ、周辺各国への悪影響から相場が動揺しているといえる。(こうした見方から、中国当局が元安に誘導し 輸出振興を図ったとの見方は、現地では少数派意見のようだった。)
この数日の中国元の値決めに関して現地では、市場の動揺が大きかったため、「一旦介入に よりスムージングオペがなされている」との解釈だった。だが、この状況がずっと続くと市場 参加者が受け止めていない事が重要に思う。
そういう意味で、今月の元の値決め誘導は将来振り返れば中国元国際化に向けた大きなレジームチェンジとなった出来事ではないかとの感を覚えた。
さて、今回の出張で投資家のコメントで印象に残ったのは、「米国、英国と共に日本は 市場規模もあり流動性が高く、且つ自由な取引を保証をしている点が非常に投資先と して有望だ」という意見だった。
足元の動揺が収まった後の投資先を検討する際、日 本(株式市場)は有望な先だとの意見が海外投資家から聞かれた。 こうした事から、避難通貨としての役割は健在だと実感した。そう整理されているからこそ、先週金曜からの市場 の動揺が円買いの動きにつながったのだといえる。
テクニカルな目処としては 7 月の中国株安、ギリシャ債務延長問題時につけた、120 円 41 銭がポイントだった。21日に円高方向へ下抜けした後、当日中に一気に今年 1 月に原油価格急落からグローバルな金融市場全体が動揺した折につけた 115 円 86 銭を試しに行くという、歴史的な1日当たりの取引レンジとなった。その後、ドルの上値は、120.41銭が抵抗線となっている。目先は、このラインを再び越えて円安に動けるかどうかがポイントとなろう。