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1ユーロ、20年ぶり1ドル下回る 露中との貿易拡大のツケ

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【経済着眼】ロシアの天然ガス供給削減が直撃

公開日: 2022/07/15 (ワールド, マーケット)

ロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ヤマル・ヨーロッパ」の施設=Reuters ロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ヤマル・ヨーロッパ」の施設=Reuters

俵 一郎 (国際金融専門家)

 7月13日の欧州為替市場では一時、1ユーロ=0.9998ドルをつけ、2002年12月以来ほぼ20年ぶりに1ドル=1ユーロのパリティー割れとなった。今年に入ってユーロは対ドルで12%の大幅下落となった。

 一年前と比べると16%と下落幅は広がる。ドルの実効レートは、円、ユーロ、英ポンドなど全面高となり20年ぶりの高水準となっている。

 言うまでもなくFRBがインフレ圧力の急速な高まりの中で米国金利の方がユーロ金利を上回ろう、という見方がユーロ下落の一要因である。さらにユーロ圏の景気の弱さ、場合によっては物価が高騰を続ける一方で景気がリセッション入りするというスタグフレーションに陥る確率が高まっていることも響いている。

 もっとも、6月以降、最近までのユーロ急落に最も効いているのはロシアによるユーロ圏向け天然ガスの削減であろう。

 4月、5月におけるユーロ安はユーロ圏内におけるイタリア、スペインなど南欧諸国の金利スプレッドが大幅に拡大していたことが金融危機を招きかねないという不安が背景にあった。ドイツとイタリア国債のスプレッドが2%を越えていた。

 しかし、6月中旬から7月にかけては、ロシアが欧州への天然ガス供給を定期点検などの名目で大幅に削減する中、天然ガス市況が2倍以上に跳ね上がった。

 このためゴールドマンザックス社によると、ドイツをはじめとするユーロ圏のスタグフレーション入りの確率は50%以上と米国(30%)、英国(35%)をはるかに上回っている。

 ユーロ圏の物価動向をみると、6月の消費者物価は8.6%と依然として衰えを見せない。とくにほとんどを輸入に頼るエネルギーコストの増加は深刻である。

 従ってエネルギーコストの上昇は貿易収支の悪化につながり、貿易黒字国で知られたドイツが5月には若干の赤字に転落、ドイツ銀行の予測では、今年のユーロ圏全体の貿易収支は4,000億ユーロの大台を越えそうである。

 市場アナリストはもはや米国とユーロ圏の金利差や南欧諸国の金融危機再来よりも天然ガス価格の急騰、さらには冬場の需要期にかけて必要な供給量を確保できるかという不安がユーロ安につながっているとみている。

 つまり、ロシアがウクライナでの戦争でユーロ圏が経済制裁やウクライナへの武器供与をやめさせるために天然ガスの供給削減を武器にして脅してくる確率が高まっている。

 エネルギー輸入全体に占める天然ガスのシェアはイタリアが40%、ドイツが26%、スペインが24%と高水準となっている。従ってロシアが天然ガス供給を制限した場合の影響は甚大である。

 ドイツ連邦準備銀行(ブンデスバンク)ではロシアからの天然ガス全面禁輸となった場合、ドイツのGDPは6%も縮小すると試算している。EU全体でも4~5%のGDP縮小が避けられないという計算だ。

 仮にユーロ圏の成長率が1%低下すればユーロの対ドルレートは2%切り下がるという経験則がある。全面禁輸といった事態にならなくても2023年がマイナス成長というECBをはじめとする大方の見通しに基づけばユーロの大幅下落に不思議はない。

 ユーロ圏企業の国際競争力がウクライナでの戦争で米国などと比べても大きく喪失されることも大きい。欧州企業はドイツのフォルクスワーゲンをはじめとして中国への消費ならびに製造依存度が大きい。

 欧州企業は、もし、最近の新型コロナの感染拡大でロックダウンが続けば甚大な経済的悪影響を受ける。さらにベラルーシ、ロシアのサプライチェーンはほぼ完全に閉鎖されている。欧州企業のエネルギーコストは自国の石油、天然ガスで賄える米国と違い、高コスト構造となっている。高コストを相殺してきたロシア産の安値での天然ガス供給も途絶えそうである。

 マクロ経済の見通しに戻ってもユーロ圏は米国との対比で劣勢にある。たしかに米国経済も消費者物価の上昇率が6月で前年比9.1%と衰えを見せないため、FRBの金融引き締めが一段と強化されるのは間違いない。

 このため、金融政策に起因した景気後退に陥るのは不可避とみられている。ただ、その場合でも景気の落ち込みは企業の収益力の強さ、バランスシートの強靭さからみてITバブル崩壊時の2001年などと同様に浅いものにとどまるであろうとみられる。

 一方でユーロ圏では景気後退はロシアのユーロ圏による経済制裁、武器供与に対する報復措置という政治的要因がもたらすものである。

 リセッションに陥っても、そもそも欧州企業は米国企業と比べて損益計算書(収益)、貸借対照表(バランスシートの健全性)ともに見劣りする上、天然ガスの供給制限というサプライショック長期化の下でそう簡単に立ち直るとも思えない。したがって現在のユーロ安が早期に修正されることは難しいであろう。
 
 ユーロ圏は、陸続きのウクライナでの戦争の影響をまともに受けた、換言すればロシアに隣接する地政学的リスクが大きかったことが通貨安につながったわけだ。

 しかし、「ベルリンの壁」が崩壊後、ドイツを筆頭としたユーロ圏諸国は「平和の配当」としてロシアの安価な石油・ガスを使って経済成長を遂げた。

 いまのユーロ安は、いわば社会主義国と交易を広げるという政治的なリスクと経済的メリットを天秤にかけた結果でもある。とくにドイツはロシアのみならず中国とも親密な経済関係を築いたことが西側諸国とロシア・中国の対立が強まる中で大きな不安材料となってきた。ドイツにとっては偉大な政治家メルケルの負の遺産となった。
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