ウクライナ侵攻で金融・資本市場や商品相場は大荒れになっている。まず為替市場ではルーブルが対ドルで年初来3割ほど安くなった。ロシア中央銀行の外貨準備運用に対する規制のため、為替介入でルーブル安を阻止できないのも見越してルーブル売り圧力が強まった。
株式市場ではロシア株の取り引きがモスクワ市場では停止されている。ロンドン市場ではズベルバンク、ガスプロム、ポリウスなど代表的ロシア株の売買が行われてきた。ロンドンは、ロシアのオリガルヒ(新興財閥)などにとってのオフショア主要市場である。
ロンドンのナイツブリッジなどの高級レストランでロシア人の顔を見ないことはなかったほどだ。ロンドン証取(LSE)にはロシア企業39社が上場してきた。しかし、2月24日、ロシア軍によるウクライナの全面侵攻が開始されて以来、西側諸国による金融制裁と相まってロシア株取引ならびに決済が事実上停止されている。
大きな混乱を来しているのはロシア株の運用を設定してきた世界的な投資信託である。世界的な途上国株を運用するMSCIのインデックス投信からもロシア株が「投資可能な状況ではない」として外された。もっとも、MSCIのロシア資産は今年に入って95%も価値を失っている。FTSEラッセルも4日午後からロシア株を運用対象から除外した。
資源株を中心にロシア株を大量に運用してきたロシア専門の投資信託も多く、推計では1,700億ドル(2兆円弱)に達する。ここでも巨額の含み損を抱えている。例えば、ブラックロックではロシアにおける金鉱山の株式を運用する投信を設定してきたが、同投信の基準価格は70%も下落した。
ちなみにロシアの代表的な鉱山会社であるポリメタル(Polymetal)の株価は、2月24日の1日で30%以上の暴落となった。世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金グローバルの代表も「この2週間でロシア株の価値は90%も減価、ほとんど価値がなくなったと言ってよい」と言明している。
ロシアの債券がデフォルトするのではないかとの懸念も高まっている。ロシア国債の市場価格は額面に対して33%まで落ち込んでいる。クレディット・デフォルト・スワップ(CDS)もさらにスプレッド幅を広げている。
ロシア国債は、ドル建てが200億ドル、ルーブル建てが410億ドル程度の発行量だとみられる。このうちルーブル建てについては96百万ドルの利払いが3月3日に予定通り行われた。
このようにロシア関連の金融資産が大きくその価値を失う一方で、商品相場ではロシアが世界二位、一位の輸出実績を誇る石油、天然ガスなどの天然資源を中心にウクライナ危機にともなう需給のひっ迫予想を背景に高騰を見た。
世界経済の全般的な商品価格を示すS&PのGSCI商品指数はウクライナ侵攻後の1週間で+16%の急騰と1970年の第一次オイルショック以来の急伸を見せた。石油価格はニューヨーク市場(WTI:West Texas Intermediate)で前日比6%上昇のバーレル当たり116ドルと高値を続けた。
天然ガスも1MWh(1メガワット時)で既往最高値となる200ユーロ近くまで急伸して163ユーロで取引を終えた。石炭価格もトン当たり400トンを超えた。
非鉄金属も大産出国ロシアに対する経済制裁後は強い上昇圧力がかかっている。例えば世界産出量の4割を占めるパラジウムに加えて世界最大手のアルミ精錬会社ルサール社からの供給途絶の懸念からパラジウム、アルミなども急伸している。
ロシアは石油、ガス、穀物などの世界的な輸出国である。ロシアに対する西側諸国の制裁措置は、このような天然資源の物流に直接的に影響を与えようという仕組みにはなっていない。制裁措置があっても理屈の上では交易は可能である。
しかし、銀行、保険会社、海運会社、原料、製品の輸入元などが法的リスクや評判悪化の懸念(レピュテーションリスク)を背景に実質的には交易を拒否してくることは容易に想像できる。西側諸国の一般国民による対露感情悪化が予想以上だからだ。
現在のようなロシア株式、債券の価値棄損や製商品輸出をめぐる環境悪化は続いていきそうな気配だ。既に米銀あたりからはロシアの今年の成長率はマイナスに落ち込む、との見通しも出ている。
経済制裁の狙いの一つに、物資欠乏や物価高騰でロシア国民の生活窮乏化を促して反プーチンを内側からあおっていくということがある。そういう見地からは西側諸国の経済制裁も効果を挙げそうだが、辛抱強いロシア国民が耐え抜くこともあり得ないではない。