日本時間29日早朝に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)声明は、米連邦準備理事会(FRB)執行部が年内利上げ開始に対し強い意欲を持ち続けていることを改めて示した。
FOMCは市場予想通り事実上のゼロ金利政策を据え置き。経済見通しの発表もなければ、FRBイエレン議長の会見も予定されていなかったことから、利上げ開始の見送りは順当だった。
FOMC声明で注目すべき点の一つは、9月FOMCでの利上げ開始を見送る主要因とされたGlobal Developmentsに関する一文がすべて削除されたことだ。9月FOMC声明では、「最近の世界経済や金融の動向が経済活動をいくらか抑制する恐れがあり、短期的にインフレ率にさらなる下振れ圧力を与える可能性がある」(Recent global economic and financial developments may restrain economic activity somewhat and are likely to put further downward pressure on inflation in the near term)との文言を追加。FOMCが米国外の動向を懸念していることが示されたが、10月FOMC声明では、この一文がすべて削除された。FOMCの注目点が米国に戻ったことになる。
次に注目すべきは、利上げ開始の是非に関する議論を次回会合(at its next meeting=12月FOMC)で実施することを明記した点だ。FOMCはこれまで、利上げ開始の是非は経済指標次第との姿勢を示し続けてきたが、議論の具体的なタイミングについての明示は避けてきた。今回のFOMC声明で、あえて「次回会合」と言い切ったのは、FOMCタカ派メンバーに配慮しただけでなく、FRBイエレン議長を始めとするFRB執行部が年内利上げ開始に対し、強い意欲を持っていることを改めて示したと解釈できる。
米景気や雇用に対する判断においても、年内利上げ開始に対するFRB執行部の強い意欲が感じられる。米景気の現状判断は、緩やかな拡大で据え置かれたが、個人消費と設備投資の拡大が「緩やか」(moderately)から「堅調なペース」(at solid rates)に上方修正。雇用については、雇用の伸びが鈍化し、失業率が横ばいと指摘されたものの、「それでもなお」(Nonetheless)、労働市場の指標は、労働資源の未活用が年初より減少していることを示している、との判断が据え置かれた。この結果、経済活動と労働市場に対するリスクは概ね均衡しているとの見方が続いている、との判断も据え置かれ、利上げ開始の環境は整う方向で推移しているとの判断が示された。
もちろん、今回のFOMC声明で「国際経済と金融市場の動向を監視する」との文言が付与されたように、12月FOMCでの利上げ開始は、米経済指標や米国外の動向といった今後の展開次第との姿勢が維持されたまま。しかし、9月FOMCと違い、米国外の動向に関する言及が大きく削除された一方、米国景気・雇用に関する判断が維持された以上、12月FOMCでの利上げ開始が近づいたと解釈するのが自然のように思われる。
今回のFOMC声明を受け、12月FOMCまでに発表される2回の米雇用統計の重要性はさらに高まった。米非農業部門雇用者数は、8月に13.6万人増、9月に14.2万人増と、7月の22.3万人増から大きく鈍化。一方、新規失業保険申請件数は、4週平均で26.3万件と1973年11月以来の低水準を記録するなど、非農業部門雇用者数以外の雇用関連データは堅調な推移が続いている。
米雇用環境が大きく悪化したとの定性情報も現時点では得られておらず、米雇用環境はFOMCが判断するように改善傾向を続けていると判断するのが妥当のように思われる。今後発表される米雇用統計が、ハト派の期待を裏切る形で堅調な結果となれば、市場は利上げ開始を織り込む形でドル買いの動きを強めると予想される。
年内利上げ意欲を再確認した10月の米FOMC |
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公開日:
(マーケット)
NY証券市場=Reuters
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村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。 著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。 |
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