ニューヨーク、東京、ロンドンなど世界的な株安が止まらない。9月は見送られたとはいえ、米国FRBの利上げが視野に入ってきたのも一因だ。
イエレン議長が講演で指摘したように金融政策が効果を挙げるのには2年くらいのタイムラグがあるので最近の労働需給の引き締まりなどを放置すれば将来のインフレにつながる。おそらくイエレン議長の指摘通りに年内に利上げに踏み切るのであろう。
欧州ではギリシャ危機の再燃、シリアなどからの大量の難民に加えてフォルクスワーゲンの検査偽装の問題が出てきた。いずれもユーロ経済を牽引するドイツの財政支出拡大に繋がりかねない不安から株式市場に悪影響を与えている。
しかし、株価下落最大の要因は中国を筆頭に今や世界経済のGDPの4割を占める新興国経済の停滞にある。リーマンショック後、貿易取引の拡大などを背景に世界経済の成長の過半を新興国が占めていた。
最近の世界貿易は一転して減少している。ドル高の進行、石油価格の下落、米国でのシェールオイル開発による原油輸入の減少などの要因はあるものの、今年上半期の世界貿易(ドル建て名目ベース)は前年を15%も下回っている。
新興国では為替の切り下げによる輸出振興を狙ったが、輸入コストが上がるのみで輸出は増えていかないという悪循環に入っている。需要が減っているからだ。
とりわけ中国の景気停滞は深刻化の様相を強めている。実質GDPは7%と発表されているが、貨物輸送量、電力発電量、銀行融資といったいわゆる「李克強指数」から計算すれば、実勢は4~5%がいいところであろう。
中国の消費・投資の減少が各国の中国向け輸出を減らして新興国の景気停滞の起点となるという中国による「不況の輸出」である。
中南米のGDPの4割を占め高成長を謳われたブラジルは鉄鉱石,石炭、農産物などの中国向け輸出の減少を起点として深刻な景気後退に見舞われている。
今年の実質成長率は‐3%程度のマイナス成長に陥る見通しだ。「不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸な事情がある」の格言通り、ブラジルの場合は国営石油会社ペトロブラスを巡る政治疑獄で前大統領、上院議長らの取り調べも進むなどの政治情勢の不安定化も響いている。
通貨レアルは年初来3割以上の下落を辿り、インフレが高進し、政策金利は14%台まで引き上げられている。中国向け輸出ウエイトの大きいアセアン諸国も景気が大きくスローダウンしてきた。
インドネシアでは大衆人気に沸いたジョコウィ新政権ではあるが、第二四半期のGDPは4.7%と6年ぶりの低水準となる一方で、高水準の対外赤字を背景に通貨ルピアは14,000台にまで下落している。
資源価格の低迷に加えてインフラ投資の拡大、産業育成などの経済産業政策が進まないためだ。マレーシアでも原油価格の急落に加えてナジブ首相の政治疑惑などから通貨リンギは年初来20%も下落している。
石油価格の下落は産油国に打撃を与えており、ロシアは言うに及ばず、最も余裕のあるサウジでもサウジアラビア投資庁が700億ドルの投資資金を引き揚げて財政資金に充てていると報道された。
新興国の経済停滞は今のところ、97年のアジア通貨危機のような金融危機を招く恐れは少ないとみられている。当時に比べて新興国の経済力は強固であるし、外貨準備などの支払い能力も向上、国際機関のセーフティーネットも拡充されているからである。
ただ、一部で新興国発のグローバル・リセッション(世界的な景気後退)の恐れも指摘されはじめた。世界的な株価の動向が気掛かりではある。