今年は国際通貨基金(IMF)で特別引き出し権(SDR)の構成通貨が見直される。
SDRとは、IMFが1969年に固定為替相場制を維持されることを前提に国際的な準備資産として創設したもの。その後、為替相場が変動制に移行したため、SDRは必要性が低下したと長くいわれてきたが、2009年の世界的な金融危機においては、SDRがIMF加盟国の外貨準備を補完するものとして再評価された。現在は、約2,900億ドル規模のSDRがIMF加盟国で保有されている。
SDRは、創設当初、純金0.88671グラム(もしくは当時の1ドル)に相当すると決められていたが、その後、為替相場が変動制に移行したため、通貨バスケットとして再定義。現在のSDRは、ドル41.9%、ユーロ37.4%、ポンド11.3%、円9.4%の割合で構成されている。SDRの通貨バスケットの構成割合は、世界の貿易及び金融システムにおける通貨の相対的重要性を反映したものであるよう、原則5年ごとにIMF理事会で見直されることになっている。現在の通貨バスケットは2010年11月に決められたため、5年後にあたる今年11月に、SDRの通貨バスケットが再び見直される。
5月末に開催された- 主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、議長国ドイツのショイブレ財務相が会議後の会見で、SDRに人民元を採用する可能性について協議したことを表明。「原則的には(採用が)望ましく、技術面での条件を検討すべきとの見解で完全に一致している。この件をめぐり、政治的に意見が異なるということはない」と述べた。
IMF事務局や英国、ドイツは、SDRに人民元を加えることを支持する意見をすでに表明しているが、このたびG7で一定のお墨付きが得られたということもあり、人民元がSDRに加わるとの見方が強まっている。そもそも5年前と違い、人民元(そして中国経済)の国際的地位は飛躍的に高まっており、人民元がSDRに加わることに問題はないとの見方には一定の説得力がある。中国では資本・金融市場の自由化が不十分であり、人民元はSDRに含まれる通貨の条件とされている自由利用通貨(Freely Usable Currency)の条件を満たしていないとの批判もあるが、中国当局は人民元がSDRに加わることを前提に資本・金融市場の自由化を進める意向を示している。
ただ、それでも筆者は、人民元がSDRに組み入れられるかは、現時点では五分五分と考えている。IMFで事実上の拒否権を持つ米国が、SDRに人民元を含めることを了解するとは思えないからだ。米国はIMFの議決権を新興国により多く配分するガバナンス改革に一貫して反対している。
仮に人民元がSDRに組み入れられなかった場合、中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)への関与をさらに強め、IMF(ひいては米国)との対立姿勢を強める展開が考えられる。こうなった場合、注目されるのが英国やドイツといった欧州勢の動きである。AIIBの出資においては、米国の移行を裏切る形で英国など欧州勢がAIIBの出資に踏み切った。この流れが続くとすれば、欧州勢も中国の動きを見て、IMFから距離を取ろうとする可能性が出てくる。日本では、もはや当たり前とされてきた、米国による世界経済支配、の構図が少しずつ変わることも視野に入れておくべきだろう。
米国、中国に拒否権発動も SDR見直しで |
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【経済着眼】中国、人民元拒絶されれば、IMFと対決姿勢か
公開日:
(マーケット)
Reuters
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村田 雅志(ブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト)
東京工業大学工学修士、コロンビア大学MIA、政策研究大学院大学博士課程単位取得退学。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社にてアナリスト、エコノミスト業務に従事。2004年に株式会社GCIアセットマネジメントに移籍。2006年に株式会社GCIキャピタル・チーフエコノミスト。2010年10月よりブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジスト。2009年より2013年まで専修大学経済学研究科・客員教授。日経CNBCでは「夜エキスプレス」レギュラーコメンテーターを務めている。 著書に「景気予測から始める株式投資入門」、「実質ハイパーインフレが日本を襲う」、「ドル腐食時代の資産防衛」など。 |
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