アジア太平洋地域は日米ばかりでなく、中国にとってもビジネスの大きな好機だ。その市場をめぐって米中がしのぎを削っている。終始、米国サイドに立つ日本は今後どう動くべきなのだろう。
アメリカのTTPと中国のFTAAP
重要なことは、経済圏構想をめぐる米中の確執だ。米国は2008 年のオバマ政権誕生以降、環太平洋経済圏構想(TPP)を主導して来た。関税撤廃のみならず、 非関税障壁の様々な対応策が必要なので、中国は参加できない。アメリカは知的財産権 、国有企業の買収というような分野から、「自由化レベルの高い」貿易や経済慣行の枠組みさえも変えていこうとしている。
TPPが締結されると、中国は経済的にアジアから疎外されかねず、中国はTPPの成立を阻止したいところだろう。中国はTPPに対抗するため、2014年にアジア太平洋経済協力(APEC)議長国だった権限を生かし、積極的にFTAAPを推進し始めた。同年5月のAPEC貿易相会合では2025年をその締結目標に提案したほどだ。
FTAAPは関税をなくすことが中心となる見通しで、参加しやすい。皮肉なのは、FTAAPを2004年に提唱したのがTPP交渉に加わっているカナダで、さらに推進役だったのは米国のブッシュ政権だったこと。ところが、オバマ大統領はTPPの枠組みに自ら加わることで、中国を排除する戦略にでた。米国の中国封じ込め策のはじまりだった。
日本への影響
FTAAPが成立してしまうとアジア諸国の貿易、開発で中国の発言権は強くなり、日本は不利な立場に置かれてしまう。特に東南アジアでは、カンボジア、ミャンマー等財政基盤が弱い発展途上国が多いので、自国経済を発展するために、中国からの資金供給も期待している。中国は潤沢な外貨準備を使って、アジア発展途上国のインフラ建設に資金を供与しようとしている。
背景にあるのは、やはり中国の経済的な台頭。今後人口が減少していく日本にとっては、アジアは日本企業の繁栄を維持するための重要な対象であるが、アジア諸国にとっては、日本ではなく中国が中心的な貿易相手国となっている。 2013年中国とAPEC加盟国の貿易額は2.5兆ドルで、対外貿易総額の60%を占めた。中国への依存度は年々増えている。
鉄道の例を挙げると、中国は現在、アメリカを始め、世界28カ国で高速鉄道の売り込みを図っている。今年南車集団と北車集団が合併して、世界最大の車両メーカーとなる。中国企業は原価割れで提案したり、入札期間を操作したり、入札の情報を事前に入手したりすることはよくあるので、日本企業は彼らに勝てない。
また、日本企業は優れた技術力を持っているが、積極性に欠ける。また技術を海外に販売したり、提携したりする交渉力が決定的に足りない。
さらに、各国の出資による開発銀行をめぐっての米中間の覇権争いがある。中国は BRICS開発銀行、アジアインフラ投資銀行、上海協力機構開発銀行と三つの開発銀行設立を通して、アメリカ、日本主導のアジアの金融秩序に挑戦しようとしている。
昨年11月には400億ドルの「シルクロード基金」も創設した。中国と中央・南アジアを結ぶ道路や鉄道、港湾、空港等インフラ整備を支援して、中国の「シルクロード経済圏」及び「21世紀の海のシルクロード」構想を実現しようとしている。
これらの金融機関は、中国の出資比率が極めて高く、中国が強い発言力を持っている。アジア太平洋地域において、中国はこの地域でアジア開発銀行(ADB)を差し置いて、金融の主導権を握ろうとしている。
日本の取るべき対応
第一には、日本が中国との競争関係を対等にもっていかなければアジアでのビジネスはうまく行かない。日本とアメリカは民主主義国家であり、ビジネスを共同で行いやすい環境にある。そのため、日本がアメリカと軍事外交基盤を再構築し、日米同盟を強化した上で、経済の基盤を確立するべきである。
二番目に重要なのは、TPP交渉だ。現状では、日本とアメリカの間で農産物の関税などをめぐって対立が続いている。日本はもっと大局的な視点を持って、アジアの貿易全体の将来に着目した行動を取るべきである。日米はFTAAPに対抗するために早くTPPの締結を急がなければならない。
第三に採るべきことは、時間がかかることではあるが、国際的な交渉力を持った人材を育てることだ。日本企業には、海外でビジネスを進めていく上での最大の要件であるネゴシエーション力を持った人材が決定的に不足している。日本人が外国人に尊敬され、信頼されるグローバルネゴシエーターの育成が急がれる。