IMF(国際通貨基金)は10月14日、恒例の「世界経済見通し」を発表した。新型コロナ感染拡大によって世界中で100万人以上の命が失われ、犠牲者の数が増え続けている中で発表された今回の見通しでは、コロナ禍の影響で世界経済がどの程度の影響を受けたか、今後の景気はコロナ禍から素早く立ち直れるかどうか、などが注目を集めた。
まず、今年の世界の実質成長率は-4.4%と前回6月の見通し(-5.2%)を上方改定することとなったものの、1930年代の大恐慌以来という大幅なマイナス成長であることに変わりはない。さらに来年の同成長率は+5.2%と持ち直す、との見通しを明らかにした。
今年の成長率が思ったほど落ち込まない要因として、IMFでは①主要先進国で大規模なロックダウン(都市封鎖)が続いた第二四半期(4~6月)のGDP実績値が予測されたほどのマイナスにならなかったこと、②先進国で5月、6月にロックダウンが緩和されて経済活動が予想よりも早く回復したため、第三四半期に景気が加速する兆しが見えること、③中国における成長回復が大方の予想を上回るものとなったこと、を指摘している。
また、先進主要国、新興国で採られた前例のない規模での大胆な財政金融政策がなければ、景気回復のペースはもっと緩慢であったであろう、としている。
新型コロナ感染の発生源である中国は、今年、主要国で唯一のプラス成長(+1.9%)を記録した後、来年には+8.2%の高成長が予測されている。IMFではその要因として、①コロナ感染の拡大をうまく制御するのに成功したこと、②政策金利引き下げを通じる金融緩和効果、③資金繰りの苦しかった地方政府や中小企業向けの貸付拡大が効果をあげた、と指摘している。
IMFのチーフエコノミスト、ギータ・コピナート氏は中国の成長について「中国が2020年にプラス成長を維持したあと、2020年に高成長をたどるという好パーフォーマンスを示さなかったら、2020年と2021年を通算した累積ベースの世界成長率はマイナスになっていた」と中国の寄与の大きさについてコメントした。
このほかの地域別予測をみると、主要先進国では米国が2020年-4.3%、2021年に+3.1%、ユーロ圏が同じく-8.3%から+5.2%、日本が-5.3%から+2.3%となっている。
ブラジル、メキシコなどの中南米諸国や2020年が二桁のマイナス成長となるイタリア(-10.6%)、スペイン(-12.8%)などの南欧を中心とした欧州地域では、GDPが2023年になってようやく新型コロナ前の水準に戻るであろう、と回復の立ち遅れを予測している。
これまでIMFは、融資プログラムの実施にあたって財政赤字拡大に対しては財政緊縮を提言することが多かった。しかし、今回は、コロナ感染に伴う景気後退や雇用情勢の悪化にあたって、当面の財政赤字拡大よりも、政府が減税や所得補償などの景気支持策を取り続けることが重要だ、という従来とは180度違うスタンスを示している。
来年にGDP成長率がプラスに転化するとはいえ、2020-2025年にわたる中期的な成長率見通しは+3.5%と従来のペースを下回るものとなりそうである。とくに開発途上国、最貧国の成長低下を要注意としている。
ひとつは貧困層が拡大することだ。1990年代以降、世界の貧困は削減されてきた。しかし、今後は、途上国経済の悪化が免れないこと、入国制限に伴う途上国からの出稼ぎ労働も激減するためだ。今年は一日の収入が1.9ドル以下の最貧困層が9,000万人近くに増えるとの見通しを示している。
中期的な成長率が低下する中にあって、開発途上国などの対外債務も急増する。潜在成長率の低下に伴う税収の減少もソブリンものの債務増大につながる。IMFでは国際金融界として低開発国などに対する債務減免、贈与の拡大、融資条件の緩和などの支援策を講じるべきだと提言している。
このようなベースライン・シナリオ(標準的な予測シナリオ)に対して、IMFでは「パンデミック感染の度合いやワクチン開発などの先行き予測が極めて難しい。それに伴う世界のツーリズムや海外からの出稼ぎ送金などに及ぼす悪影響も不確実である。さらに国際金融市場でのセンチメントが今後どうなるのか、それによって変化する世界的な資本流出入の動向も読みにくい」として、世界経済はダウンサイド(下振れ)・リスクが極めて大きい、としている。