中国の5月生産者物価(PPI)が前年比+9.0%と2008年9月以来13年ぶりの高い伸びとなった。4月のPPIも同+4.8%と高い伸びであった。
背景には昨年4~5月がコロナ感染の拡大に伴う都市封鎖などの影響からマイナスとなった「ベース効果」もある。一方で、PPIの中でウェイトが高い原油、石炭、鉄鉱石や錫、銅、アルミなどの非鉄金属の国際商品市況が高騰している影響も大きい。
例えば、原油はバーレル当たり70ドルと一年前の37~38ドルの約2倍となっている。欧米諸国の多くで都市封鎖が解除されてコロナ・ワクチンの接種も進んで夏場ガソリン需要が大幅に拡大すると見込まれているためだ。
ちなみに中国の5月PPIの品目別内訳をみると、原油・天然ガスが+99%、鉄鋼製造が+38%、石炭加工が+34%、などとなっている。
PPIの高騰はベース効果があったとしても基本的には中国経済がコロナ感染からいち早く立ち直って生産活動が拡大してきた反映である。工場からの出荷価格であるPPIが高騰するということは製造業などのコスト上昇をもたらして企業の収益悪化につながる恐れが高い。
とくに消費者部門に近い川下ほど(簡単にコスト上昇を転嫁できないので)収益スクイーズの度合いが大きくなろう。また規模別では中小企業も利益率が低く、投入コスト上昇の悪影響は大きい。このため中国政府は中小企業への補助金支出の意向を示している。
また中国政府は、商品市況の上昇は過剰な投機行動によるものと警告を発して消費者物価(CPI)への転嫁を防ぐ措置を導入すると表明している。
しかし、目下のところ、5月の消費者物価は前年比+1.3%と安定している。この背景は、自動車燃料が前年比+21.3%と高い伸びとなった一方で、中国人の食卓に欠かせない、したがってCPI構成比の高い豚肉価格が前年比-23.8%と大幅下落を示しているためだ。
中国政府の今年のCPI目標値は+3%であり、年間を通じてもこの水準を下回るものとみられている。したがって中国人民銀行が利上げに向かう可能性は乏しいとみられる。
世界の工場になっている中国のPPIの高騰は当然のことながら世界経済に影響を及ぼすことになる。
さらに広東省ではいったん収まったかに見えたコロナ感染が再拡大しており感染者が毎日100名を超えている。このため、世界最大の深圳港では、コンテナの積み下ろし作業などがストップしているほか、当局によるコロナ感染の防御策が強化されて投錨する船舶数も急速に減少している。
昨年以来、欧州向けについてはコンテナ船の不足、困難さを増す船員確保などからすでに海上輸送を鉄道輸送に切り替える動きを見せていた。
5月の輸出は前年比+27.9%と電気製品、半導体など引き続き高いペースを誇っている。しかし、6月以降は国内出荷価格の上昇、積出港における積載量の減少が輸出価格の上昇となって世界のインフレ圧力が強まることになろう。