FRBは14~15日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で1994年以来の大幅な利上げ幅となる0.75%の利上げを決定した。
パウエル議長は大幅利上げについては、「前週末の10日に発表された消費者物価指数(CPI)やインフレ予測のデータを踏まえて0.75%が適切と考えた」と説明した。5月のCPIは前年比8.6%と40年ぶりの大幅なものだった。
大幅利上げに至るFRBの金融政策を振り返ってみよう。3月にまずゼロ金利政策を解除して0.25%の利上げを行い、5月にさらに0.5%の利上げを行って利上げを加速した。
パウエル議長は5月のFOMC後の記者会見において6月、7月のFOMC会合での0.5%利上げを示唆していた。今回は予告を上回る踏み込んだものだったといえる。
市場予想も前日までに0.75%利上げ予想が大勢となっていたため、意外感はなかった。いわゆるブラックアウト(FRB関係者が記者を含む外部との接触ができない)期間中で、FRBサイドから情報が漏れたとは考えにくいものの、JPモルガン、CNBCなど有力機関が一斉に0.75%予想に切り替えた。なかには1%の利上げを予想する向きもあった。
パウエル議長は「ソフト・ランディング」の達成は可能と言明した。そのうえ「0.75%の利上げは明らかに異例の大幅なものであり、この規模の利上げが頻繁に行われることはなかろう」ともコメントした。
このような「金利を引き上げてインフレ抑制を図る一方で景気は大きく崩れない」というパウエル議長の楽観発言を好感し、株価は上伸した。
S&P500が5日間続いた下落を止め、前日比+1.5%、テック株を集めるナスダック指数も+2.5%の上昇となった。債券市場でも10年物国債の利回りが0.17%低下(価格は上昇)して3.3%となった。
ステートメント(声明)をもう少し仔細にみてみよう。ロシアによるウクライナ侵攻が「追加的なインフレ圧力を招き、経済活動の圧迫につながる」「中国のロックダウン拡大がサプライチェーンの混乱を拡大して物価高騰につながる」という対外面でのリスクが強調されている。
声明では「さらなる利上げが適切」と触れたうえ、パウエル議長の記者会見では「7月のFOMCで0.5~0.75%の利上げがありうる」と明言した。それとなく0.75%の可能性に触れている。
FOMC参加者による経済・政策見通し(SEP)をみると、政策金利(フェデラルファンド金利)の水準に関する予測の中央値は22年末時点で3.4%(3月時点の見通し1.9%)と+1.5%、23年末も3.8%(同2.8%)と大きく上方修正された。
常に後手に回っている(ビハインド・ザ・カーブ)との批判をかわすため、引き締め強化の姿勢を鮮明にしたものだ。もっとも、24年末にはインフレの落ち着きから3.4%に低下すると見通している。
実質成長率の見通しは2022年末で1.7%と前回(同2.8%)比1%強の下方修正となっており、潜在成長率を下回る見通しとなっている。
インフレ見通しについてみると、個人消費支出(PCE)デフレーター(コア指数)は4月の前年比が4.9%であったが、2022年が4.3%、2023年が2.7%と、来年になってもインフレターゲットである2%を上回る見通しとなっている。
このため、これまでステートメントに織り込まれてきた「FOMCでは、労働市場では力強さが残る一方、インフレ率についても2%の目標値に戻っていくことを期待する」との表現は消えて、労働市場には触れず、たんに「FRBはインフレ目標値に強くコミットしていく」と変更された。
今回のFOMCの経済・政策見通しはあちこちに景気減速の兆候をちりばめてはいるが、かなり楽観的な様相を呈している。
FRBは他国の中央銀行とは異なり、物価の安定だけでなく、雇用の確保もめざすよう求められている。失業率がガンガン上がる見通しなら、金融緩和か少なくとも利上げのストップが求められかねない。中間選挙を11月に控えて、悲観シナリオは出しにくい事情もあるだろう。
しかし、景気を端的に現す実質成長率は足下で第一四半期(1-3月)が-1.5%とマイナス成長であり、アトランタ連銀は、第二四半期(4-6月)もフラットにとどまると予想している。またミシガン大学の有名な消費者センティメント調査でも消費者コンフィデンスは物価の高騰から史上最低を記録した。
6月11日には、ガソリン価格が史上初めて1ガロン=5ドルの大台に乗せた。5月の小売売上高も前月比-0.3%と5か月ぶりの減少となった。
FRBでは労働需給のタイト化も景気の堅調持続の根拠としている。しかし、5月の非農業部門雇用者数は39万人増と2021年4月以来の低水準である。
失業率は現在の3.6%から2022年末で3.5%とほぼ完全雇用水準を守るという楽観的な見通しとなってはいるが、2023年末で3.9%、2024年には4.1%と成長率の低下から上昇する見通しとなっている。
FRBとしてはパウエル議長も再三強調しているように、まずはインフレ抑制を最優先の政策課題とするしかないのだろう。金利を引き上げても不況にはならないという僥倖が訪れればいいが怪しいものだ。
70年代の大インフレ時代を収めたボルカー議長のように、景気悪化の怨嗟の声を一身に浴びながらもインフレ退治にまい進しなければならない局面がくることも覚悟しなければならない。パウエル議長はやり遂げられるだろうか。