国際通貨基金(IMF)による世界経済見通しが発表されて世界経済の多くの混迷が浮き彫りになった。
インフレは30~40年ぶりの高水準となり、多くの国で強力な金融引き締め策が採られている。インフレ、ウクライナでの戦争、新型コロナ感染の持続も悪影響を加えており、世界経済の景気悪化につながっている。
将来における世界経済の健全さは、金融政策の成功によるインフレの収束、ウクライナでの戦争の帰趨、中国を筆頭とする新型コロナ感染拡大に伴うサプライチェーンの混乱の解消度合いなどによって左右されよう。
IMFによれば、世界経済の実質成長率は2021年が6.0%、2022が年3.2%、2023年が2.7%となる見通しである。この成長率はグローバル金融危機、新型コロナ感染の拡大といった時期を除けば2001年以来20年ぶりの低成長となる。
米国が2022年上半期にマイナス成長となったほか、ユーロ圏は2022年下期にマイナス成長に落ち込む見通しである。ロシアによるガスの供給停止がユーロ圏諸国の産出量減少をもたらすためだ。世界全体でもおよそ世界の国の1/3が二四半期連続でマイナス成長を記録しそうだ。
一方、世界全体のインフレは2021年に4.7%、2022年に8.8%、2023年に6.5%、2024年に4.1%となる見通しだ。
世界経済の成長は明らかにダウンサイドリスクが大きい。1年先に世界経済の成長率が2%を割り込む可能性が25%はある。金融政策が行き過ぎた引き締めとなるリスクは否定しえない。さらにFRBの引き締めが持続して米ドルが上昇する一方で新興国通貨が減価していくことも予想されよう。エネルギー、食糧価格の上昇は執拗に続きインフレを長引かせよう。
先進国の金融引き締めの影響が途上国の債務情勢の悪化につながることも要注意だ。低成長と金利上昇に伴う借り入れコストの上昇を通じて債務支払い負担が増加、これを解決するためには債務返済負担を軽減するような枠組みにつながる意味のある改善策が必要とされよう。
中国の不動産セクターにおける債務危機は同国の銀行セクターにも悪影響を及ぼし、中国全体の経済成長を抑え込むだけでなく、世界各国にもその悪影響は波及しよう。
思い切った金融政策は世界経済をハードランディングさせる恐れがある。しかし、思い切った金融引き締めによってしか、インフレを撲滅して物価=賃金の悪循環を断ち切る、インフレ期待率が上昇するのを抑え込むことはできない。
この間、財政政策はまず、世界中に存在する生計費危機に直面する貧困層に対する支援を最優先すべきであろう。一方でマクロ的には財政政策は金融政策と一致したスタンス、つまり十分に引き締まった支出抑制を通じて国民の生活費危機につながっているインフレ抑制に資するように運営されるべきだ、としている。英国のトラス政権に対する批判の根拠である。
構造改革政策も生産性を向上させ、サプライチェーンの制約を緩和する見地からも重要であり、またこのような構造改革政策がインフレの高進を食い止めることにもつながろう。
世界経済が直面しているいくつもの不確実性の中で最大のものがインフレの高進とその帰趨であろう。またウクライナとロシアの戦争は地政学的な混迷を深めている。
さらに新型コロナ感染の拡大は多くの国で緩和されてきたものの、中国を筆頭にその感染がロックダウンの拡大などを通じて経済活動をゆがめている。欧州や南アジアにおける大干ばつはグローバルな気候変動の将来を映し出している。
IMF世界経済見通しを国別に見た特徴を挙げると、米国が2022年の成長率が3.7%から1.6%へと-2.3%の大幅低下、2023年も1.0%に落ちている。FRBによる厳しい金融引き締めの影響が大きい。
ユーロ圏もドイツ、イタリアが2023年にはともにマイナス成長に転落する見通しだ。ロシアからの天然ガス供給ウエィトが高い方から1、2番目であるのが響いている。中国も2022年は政府目標の目安5.5%を下回る3.2%となる。ゼロコロナ政策の影響も大きい。
今回の世界経済見通しのタイトルが「生計費危機への対処」となっているだけにグローバルインフレの高進がとくに途上国の国民に与える影響を懸念している。開発途上国ならびに新興国におけるインフレ率が先進国を上回り2022年4-6月期が前年比10.1%、7-9月期が同11.0%と1999年以来の高水準となった。低開発国では消費額の50%以上を食糧費が占めているだけに健康問題や生活水準の低下に直結すると懸念を示している。