ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は、不動産価格の二桁上昇が続くなど、金融超緩和の副作用が目立つ中で、10月6日、政策金利を0.25%から0.5%へと引き上げた。同国にとってはほぼ7年ぶりの利上げで、主要国としてはノルウェー、韓国に次ぐ三か国目の利上げとなった。
ニュージーランドではアーダーン首相が、昨年に10月コロナ感染の徹底した抑制を評価されて同首相を支える最大与党である労働党が総選挙で大勝してアーダーン首相も再任された。このコロナ感染の抑制は世界中から称賛された。
ニュージーランド経済は、2020年中、厳しいロックダウンに伴い大幅な落ち込みを示した。しかし、実質GDP(年率換算)は今年に入って1~3月が+5.5%、4~6月が+11.5%と着実に回復傾向を示してきた。
ただ8月に入り、新型コロナ変異型の感染者が1名確認されたことによって全土にロックダウンを再導入するなど、再び思い切った抑制策を打ち出した。その後、遅れていたワクチン接種も完全接種率で4割を超えて、感染も落ち着きをみせてきた。
このため現在は最大都市オークランドを除き、行動制限は大きく緩和された。7~9月以降も上記のようにプラス成長に転換して景気底入れが確認された地合いを引き継ぐものとみられる
こうした中で注目され続けていたのはバブル気味ともいえる不動産市況の高騰であった。ニュージーランド準備銀行は昨年3月に0.75%の緊急利下げを実施した。しかし、その後、経済の正常化とともに「翌年には利上げに転換する」との見通しを示した。
昨年7月にはいち早く量的緩和の一部についても停止するなど、「緩和水準の引き下げ」に動いていた。しかし、今年8月に変異型の感染者確認に伴い、利上げの機会を逸していた。
一方で、カネ余りの続く中で不動産市況はオークランドなどの都市部を中心に一時は前年比20%近い上昇を見せてその後も16~18%という高騰ぶりを示している。今年2月には、国民の不満増大を背景に、アーダーン首相が「ニュージーランド準備銀行は、金融政策の決定にあたって不動産市況の高騰ぶりも考慮してほしい」と批判した。
ロバートソン蔵相も「ニュージーランド準備銀行は、金融政策の決定にあたって、政府が目標とする不動産価格の安定、投機的な需要の抑制も含めて決定してほしい」と述べた。この政治サイドからの異例のメッセージに対して金融界やエコノミストからは中央銀行の独立性を脅かすものと警告が発せられたくらいである。
ニュージーランド準備銀行は今次利上げに際して「今後も中期的なインフレならびに雇用の見通しが安定的であれば金融刺激効果を一段と弱めていきたい」と今後の利上げについても踏み込んだコメントを発している。
変異型ウィルスの感染がこれら中期的見通しを変更するには至らないともコメントしている。インフレ見通し(コア消費者物価上昇率)に関しても短期的には4%を超えることがあってもインフレ目標である2%に収まる、としている。
また不動産価格については、確かに持続不可能な上昇を続けているが、政策金利の引き上げに伴うモーゲージ金利の上昇の影響等でこれ以上の高騰を回避できる、との自信を示している。
ニュージーランド以外に利上げに踏み切った韓国やノルウェーもコロナ感染後にとられた緊急利下げ等に伴う不動産価格の上昇が利上げの一因となっている。日本の1980年代後半から90年代初におけるバブル期や最近の中国における恒大集団などの経営危機にもうかがわれる通り、余剰マネーが不動産に流入することは洋の東西を問わず、避けられない現象のようだ。