スリランカでは、ゴトバヤ・ラージャパクサ大統領が経済、政治的危機を収めようとしている最中に通貨ルピーが大幅に下落した。ルピーは1ドル=300ルピー近くと年初来32%の下落と史上最安値を更新するとともに世界的にみてもロシア・ルーブルの下落幅をも上回る最弱通貨となっている。
スリランカでは、外貨準備の払底と外貨建て債務の急増が続く中で外貨危機が続いている。経済危機の中で政治も混迷を極めている。パンや燃料の急騰を背景に生活苦に陥った民衆が大規模デモなどの抗議活動を繰り返しており、4月4日に新しく任命されたサブリ財務相は翌5日に、続いて中銀総裁も8日(月)に各々辞任の意向を示した。
サブリ氏は「7月25日に満期を迎える10億ドルの国際ソブリン債について返済繰り延べなどの債務再編を行わなければデフォルトに陥る」と警告を発したうえ、IMFなど国際金融機関の支援が不可欠だと述べた。ちなみに10億ドルの国際ソブリン債の市場価格は58セントと記録的な低水準に落ち込んでおり、スリランカの債務返済能力に対する市場の信頼が大きく欠落していることを示している。
スリランカというと、中国が「一帯一路」戦略に基づき、インド洋の重要拠点となるスリランカを重視して積極的に融資やインフラ整備事業にこたえたことで知られる。その一方で、中国はスリランカを「債務の罠」にはめようとしていた、と言われる。中国国営企業が99年間に亘ってハンバントタ港に99年の運営権を確保、将来の軍港化を目指している、と国際世論から大きな非難を浴びた。
中国はマヒンダ・ラージャパクサ首相(大統領、前財務大臣の兄弟)が大統領時代に中国との友好を深めた。一方で、インド洋での安全保障上の影響保持で中国に譲れないインドとも資金援助、開発事業で支援を仰いできた。ラージャパクサ一族としては、両国を競わせて資金援助等を引き出すとともに、融資の条件として厳しい緊縮政策を求めるIMF、世銀など国際金融機関の束縛から逃れようとしていた。
しかし、実際にはIMF、世銀、アジア開銀などの国際機関の融資シェアが圧倒的であり、中国は日本と並ぶ10%程度のシェアしかなく、いざとなれば国際金融機関に頼るしかない。
スリランカの2020年末における対外債務残高は563億ドル、GDP比70%に達している。これに対して外貨準備高はわずか27億ドル(21/9月末)に過ぎない。22年中に返済が必要な債務は前記10億ドルの国債を含めて70億ドルと外貨準備の二倍以上の規模となっている。
ちなみにバジル・ラージャパクサ前財務相(大統領の弟)は財政赤字の中での減税敢行などの人気取り政策をおこなった。このため、格付け機関による格下げ、海外投資家の資本逃避などが起こり、国際資本市場での調達が不可能となった。対外決済は外貨準備取り崩しによって賄うしかなくなっている。
国際収支は慢性的な赤字である。とくに新型コロナ感染の拡大によって出稼ぎ収入やサービス収支(17年中33億ドル→20年中8億ドル)の大半を占める観光収入が大きく落ち込んだ。さらにロシアのウクライナ全面侵攻以来、対外ポジションは一段と悪化しているとみられる。
つまり、スリランカは消費財、投資財のほとんどを輸入に頼っている。エネルギー価格が上がっているところに、ルピー安で石油、ガスなどのエネルギーや穀物輸入の支払額が増大したためである。
ちなみに消費者物価指数(22年1月)は前年比+14.2%と二桁に上昇、とくに食品価格は同+25.0%と急騰している。いまや世界的に食料価格インフレとなっている。FAO(国連食糧農業機関)では3月の食料価格が前年比+34%、前月比+12.6%と急騰した、と発表した。ウクライナ、ロシアは穀物、食用油(ひまわり油が主力)の世界輸出に占める割合が3割ほどを占めている。食料高騰はスリランカのほかにも、エジプト、インドネシアなど小麦、食用油などを輸入に頼る国で暴動につながりやすい。
金融市場の動きをみると、スリランカ中銀はインフレ亢進、対外収支の不均衡拡大を理由に21年8月に政策金利を0.5%引き上げたのに続き、22年1月にさらに0.5%引き上げた。さらに4月8日には通貨防衛とインフレ抑制のため、一挙に7%引き上げて政策金利の水準は13.5%となった。
このようなスリランカ経済の悪化、デフォルトの可能性増大などを背景に株価はコロンボ全株指数で8,249.7と年初来33%の大幅下落をみている。金融面にスリランカを襲う大きな不安が投影されている。
ラージャパクサ一族が長年、スリランカの政治を牛耳っている。ゴトバヤ・ラージャパクサ大統領は2019年4月に発生したイスラム過激派による爆弾テロ事件の収拾に手腕を見せて当選した。その後、兄のマヒンダ・ラージャパクサ首相が率いるスリランカ人民戦線(SLPP)は2020年8月の議会選挙で過半数を上回る145議席を獲得している。インフレの高進で24年の大統領選に向けて、国民の政策運営に対する反発が高まっていきそうな気配だ。さらには一族の間でもIMF融資に頼るべきか否かといった問題で意見を異にしている。一段の政治情勢の混迷が予想される。